さらに女装を極めたい
峰朝日・峰水香夫婦に女装コーチをされている。咲さんから教わった女装メイクして、ロングヘアのウィッグをかぶったら、水香さんにオフショルダーのトップスとふわふわスカートを着せられてしまった。こんなに肩出すの!?
朝日さんが俺をためつすがめつしてから言った。
「肩甲骨を中に入れて! 肩幅を消すんです!」
「こ、こうです?」
「そのまましなやかに歩きましょう、あくまでたおやかに! しゃなりしゃなりと! キビキビしない!」
和束ハルの件で女装した時より厳しいが!?
千歳は不思議そうだ。
『肩幅気になるのに肩出すのか?』
水香さんが答えた。
「つけ袖がふわっとして大きいので、肩幅を狭く見せる効果があるんです」
『へえー』
「和泉様はウエストが細いので、そこは絞らずに、代わりに腰とお尻のボリュームを盛るスカートにしてます」
『うん、腰つきがすごく女っぽい』
俺はもうげんなりしていた。
「そんなこと言われてもなんも嬉しくない……」
『頑張れ! うまく行けば1千万だぞ!』
「ううう……」
歩幅を大きくしすぎないよう、地面にそっと足を置くように歩く。
「こんなにやってる女の人いなくないですか?」
そう聞いたら、朝日さんは真剣に言った。
「何を言ってるんですか、本物より本物らしく振る舞うのが女装ですよ!」
「まああなたが一家言あるのは知ってますが……」
「それと、当日はこれを薄くつけてください」
朝日さんは香水の瓶を取り出した。桃に似た甘い香りがする。そういや【香水を吹きかけた女装男】じゃないとユニコーンは騙せないんだった。でも、香水も指定なのか?
「特別な香水なんですか?」
「ラクトンっていう、10代の女性の体臭にのみ含まれる香り入りの香水です。これで若い女性を演出してください」
お、俺が10代の女の子に……!?
いや、ユニコーンに襲われたくないし、香水くらいつけるが、俺が10代の女の子に……!?
「じゅ、10代はさすがに無理では」
「ユニコーンの好みがそれくらいだそうです」
朝日さんは香水を俺の手に握らせた。
「これ、お渡ししておきますね。明日は女声で英語話すレッスンもお願いします。金谷蒼風さんと金谷マリアさんが見てくれます」
金谷蒼風さんは金谷あかりさんの二番目の兄で、狭山さんの結婚式でちらっと見たことがある。奥さんらしき金髪の女性と席についていた。たぶん2人とも英語できるんだよな。
「英語レッスンは普通の格好でやっていいですか?」
朝日さんはピシャリと言った。
「ダメです。万難を排してください」
そんなあ……。




