ユニコーンを攻略したい
唐和開港綺譚に出てくる薬膳再現企画で、狭山さんちに集まって冬の薬膳を作っている。食べる担当で千歳もいる。
本日のメニューは、大根・豆腐・白菜のしゃぶしゃぶ鍋、エビのニラ炒め、シナモン紅茶。
狭山さんの担当にして俺の幼馴染のおっくんが俺に聞く。
「大根豆腐白菜は冬の養生三宝?」
「そうそう、体潤すやつ。豚肉も潤す」
なんだかんだで、おっくんは仕事で俺に敬語を使うのが抜けてしまった。
おっくんはメモりながら言った。
「で、エビとニラが補腎と温めるやつで、シナモン紅茶が温めるやつと……」
料理を作るのは狭山さんだが、夏の薬膳作ったときと比べると楽ということだ。
「再現がしやすいですね、Amazonとかで取り寄せなきゃいけない食材がない」
調理法も難しくないものばかりだ。料理はすぐにできて、俺たちはそれらを夕飯としていただくことになった。
千歳はシナモン紅茶に興味があるようで、真っ先に手に取った。
『うまい! シナモンスティックって甘いんだな。でもこのスティック使い捨てか?』
「シナモンパウダーでもいいんだけど、ちょっと口当たりが悪くなるから。あと見栄えの問題」
『そっかあ、載せる写真撮らないといけないもんな』
おっくんはしゃぶしゃぶ鍋をつついている。
「鍋は普通のしゃぶしゃぶ用ですね、ネギとか入れたら完全に普通」
狭山さんが答えた。
「再現しやすいほうが再現料理流行りますからね」
俺はエビニラ炒めを口にした。ちゃんと下ごしらえをしたエビはぷりぷりで、ニラの香りが食欲をそそる。
「おいしい。卵入れてもいいかもしれませんね」
そんなこんなで、俺たちは料理をつつきつつ近況を話し合った。狭山さんは、困っていることがあるらしい。
和束みやびがばら撒いた藁人形と呪いの札について。見つかる限り解呪は進めているのだが、見つからないものや誰を呪ったか分からないものが多く、収集がつかなくなっているそうだ。なので、広範囲に解呪を行うことになったとのこと。
「各地の水源に解呪の品を浸してなんとかしたい、とのことなんですよ」
俺は首を傾げた。
「そんなのあるんですか?」
「ユニコーンの角です」
「ユニコーン!?」
どういう和洋折衷!?
狭山さんは額に手を当てた。
「ユニコーンを大人しくさせて紳士的に角をもらわないといけないんですけど、肝心のやる人がいなくて。関係者が既婚者ばっかりで……」
「あー……性経験のない女の人じゃないとダメなんでしたっけ」
ユニコーン、処女にはとろとろに懐くけどそれ以外は暴れて角で突き殺しに来ると聞いたことがある。
狭山さんは頷いた。
「しかも、若い女の子じゃないとダメです」
「うわー……」
「既婚者女性陣は、未成年の女の子に危ないことさせられないって共同戦線を張ってて。僕もそれに賛成ではあるんですが、そうするとやってくれる人がいないという」
おっくんは話を聞きながら「またなんかすごいことになってる……」と呟いていた。
千歳が狭山さんに聞いた。
『若い処女しかダメなのか?』
「そうですね」
『ワシ、若い女に見えるしやろうか?』
「うーん……でも千歳さん子持ちの女性とか男性とかと融合されてますよね? それはどういう扱いになるのか分からないので」
『そっか』
「でも、どうしてもいない場合はありかも……」
ええ!?
千歳は何でもないように言った。
『やれって言われたらやるけど』
「よしな千歳、危ないよ」
俺は千歳を確かめた。そんな危ない橋、間違っても渡らせたくない。
狭山さんは言葉を続けた。
「一応、女装して香水吹きかけた男性でもいいらしいんですけど、やっぱり性経験がなくてちゃんと女性に見える人じゃないとだめだそうで」
『ふーん……ん?』
千歳は俺を見た。嫌な予感がする。
「な、何?」
『お前まだ童貞だよな?』
俺はひっくり返りそうになった。
「そんなこと聞かないでよこんな場所で!」
『そんでもって女装似合うよな』
「う、嘘でしょ……」
狭山さんが「えっ、本当ですか?」と身を乗り出す。気まずく思いながら、俺は渋々言った。
「え、えっとその……確かにありませんが性経験……」
狭山さんはやや驚いていたが、頷いた。
「そうでしたか……うん、和泉さんなら、確かに適任です。成年済みだし、事情もある程度知ってるし……」
嘘だろ……。
狭山さんはそわそわし始めた。
「その、僕に決定権ある訳じゃないですが、ちょっと上の方に今の情報あげていいですか?」
「私がユニコーン騙すんです!?」
「正直、考えれば考えるほど適任なんですよ」
「えええ……」
ユニコーンを騙す!? 31歳一般男性が若い処女のふりをして!?
俺がやらなきゃ千歳に白羽の矢が立つ。とは言え、俺は料理の味がしなくなってしまった。




