二人で鍋をつつきたい
『今季初鍋!』
千歳が食卓のIHヒーターに鍋を置いた。
「わー、いい匂い!」
鍋は薄いベージュ色のつゆが煮立っていて、ごまの香りが鼻腔をくすぐる。
「これ何つゆ?」
『ごま豆乳! 売ってるやつじゃなくて手作りだぞ』
千歳は誇らしげに胸を張った。
「へー、名前は聞くけど初めて食べるかも」
スーパーの品で見たことはあるが、口にした覚えはない。よく煮えた白菜を口にしてみると、すりごまと豆乳のまろやかさが口に広がった。
「おいしい! いいねこれ」
『そうだろうそうだろう、わざわざ作ったかいがあった』
千歳は満足げに頷いた。
「ありがとうね、これごまと豆乳以外にもいろいろ入ってない? どうやって作ったの?」
『味噌とか砂糖とか醤油とか味の素とか。鶏も豚も入ってるからうまいぞ』
「うん、おいしい」
確かに、鶏ももの角切りとしゃぶしゃぶ用豚肉が入ってる。
『鶏は1人3切れ、豚は1人4枚な。シメは雑炊』
二人でつつく鍋において、取り分は重要である。もっとも、千歳は俺に『これだけ食べていい』ではなく『これくらいは食べろ』を指示してる度合いが大きいが。
『冬は太りやすい季節なんだって。お前も早く太れ』
「が、がんばる……」
季節は晩秋。昼間はまだ過ごしやすいが、朝夜は冷える。
好きな人とこたつに入って、二人で鍋をつつく。こんな最高の夜があるだろうか?




