そばにいなきゃ祟れない
三連休最後の日、九さんが家を訪ねてきた。
「仲良くやっておるか?」
『仲良しだぞ!』
千歳は元気に言い、俺は苦笑して頭を下げた。
「おかげさまで、仲良くやっております」
俺の望む仲良しではないけど!
千歳がお茶とお菓子を出してくれて、俺たちは3人でなんやかんや話した。
九さんは言った。
「前はすまなかったのう、休ませてやるつもりが荒事に行き当たって」
前に、九さんの仲介で深山さんの家に泊まらせてもらったが、そこで探してる魂に行き当たったことだろう。でも九さんのせいじゃないので、俺は首を横に振った。
「いえ、なんてことないですよ」
『別に大丈夫だよ』
「そうか。最近はどうじゃ?」
『んー、色々あって魂2人確保して……今そこにいる』
千歳は自身の棚の上を指さした。液体ミルクとともに、閻魔大王様からもらった小箱が置いてある。
「おお、供え物をしてやっとるのか」
『うん、かわいそうだから』
「そうじゃのう……」
九さんは嘆息した。
俺は口を開いた。
「いろいろありますが、危険な目には遭っていないですね。普通に暮らしています」
『うん、遊びにも行ける! 観音崎行ったんだ!』
「ほう、何をしてきたんじゃ?」
『ゴジラの足形見てー、コスモス畑の写真撮ってー、ウニとヒトデさわってー、海見てー、あと美術館』
「ほー、二人で回ったのか」
『うん』
九さんは苦笑し、冗談めかして言った。
「そんなに仲が良いなら、もう祟るのはよしたらどうじゃ?」
しかし、千歳には冗談ではなかったらしい。愕然としていた。
『なっ、なんでそんなひどいこと言うんだ!』
「えっ、すまん」
九さんは驚いて反射的に謝った。千歳は眉をつり上げて叫んだ。
『ワシは和泉んところにずっといるんだ! ずっと祟るんだ! 絶対やめない! やめないからな!』
ち、千歳の逆鱗に触れたか!?
俺は慌てて千歳をなだめた。
「落ち着いて千歳、俺も千歳にずっといてほしいよ、いてくれればそれが祟りでも何でもいいから」
『本当か?』
「本当」
九さんは頭を下げた。
「すまんの、なんか悪いこと言ったようじゃの」
『とにかく、ワシは絶対祟るのやめない』
九さんは微笑んだ。
「そうかそうか、お主にとって和泉を祟るというのは、ずっとそばにいるということなのじゃな」
『ずっとそばにいなきゃ、子々孫々まで祟れないだろ?』
千歳は当然のように言った。
「仮に子供できたら、どう祟るんじゃ?」
『そりゃあ、七代以上続くように、面倒見て、世話して、立派に育てて……』
俺はずっこけそうになった。
「それ祟りなの?」
『そうだよ!』
まあ、千歳がそう主張するなら祟りでいいか。千歳がずっと一緒にいてくれることが祟りなら、それこそ千年祟られたっていい。




