秋の行楽楽しみたい
10月の三連休。レンタカーを借りて、千歳と、横須賀は観音崎公園まで来た。家からそんなに遠くなく、岬があって海も山も楽しめる場所ということで。
千歳は、車の運転交代に備えて二十歳の姿だ。
『運転疲れたなら、帰りワシ運転するぞ?』
「大丈夫大丈夫、できるだけ運転しなきゃ練習にならない」
2人、展望広場でゴジラの足形を見たり、自然博物館でヒトデやウニを触ってはしゃいだり、花の広場で一面に広がるコスモス畑を撮ったり。
それから、美術館のレストランがおいしいということで、お昼はそこで食べることにした。
『んまーい!』と嬉しそうにパスタを頬張る千歳を見て、俺はふと呟いた。
「本当に幸せそうに食べるねえ」
『だって幸せだもん』
千歳は、満面の笑みでまたパスタを頬張る。
「そっかあ」
ずいぶん前に藤さんに聞いたけど、千歳は今の暮らしが今までで一番幸せらしい。どうかそのまま、ずっと俺のそばで幸せに暮らしてほしい。
でも、千歳は俺が結婚して子供作ったらもっと幸せなんだろうか? それはできない相談だけど……。
考えていると、千歳が言った。
『ワシさ、美術館の絵本の展示見たい』
「食べ終わったら行こうか」
『あ、でもその前に屋上行きたい。景色がきれいなんだって』
「じゃあそうしよう」
食べ終わって屋上にのぼると、空と東京湾が一望できて、確かにいい景色だった。しかし、そばのプレートに書いてある文字を見て、俺は目を丸くした。
「恋人の聖地?」
『なんだそれ?』
「何がどう恋人の聖地なんだろう?」
調べてみると、少子化対策と観光振興のために、いい感じにロマンチックな観光地を【恋人の聖地】に指定してあるらしい。
千歳が俺を突いた。
『お前、好きな人とここ来れるようになれよ?』
もう来てるんだよなあ。
俺は、あいまいな笑顔でごまかした。