試してみずにはいられない
夜、本白神社裏の和束ハルの家に行くと、和束ハルと高千穗先生が出迎えてくれた。和束ハルは、なぜかあんまり俺を嫌がらず、なんとなくニヤついた目で俺を見ている。なんか企んでないだろうな……?
和束ハルは、崩し字がびっしり書き込んである和紙を取り出した。
「じゃあこれ、とりあえず試してみ、霊力はもう込めてあるから触るだけでええ」
「変な術式はやめてくださいよ……?」
俺が恐る恐る触れると、和束ハルはわざとらしく言った。
「あっ、普段一番距離近い人を惚れさせる術式と間違えたわ」
「え!?」
ということは……千歳だ! 間違いなく!
しかし、千歳は何も変わらなかった。
『え? じゃあワシ? でもなんともないぞ?』
首を傾げる千歳に、和束ハルは目を丸くした。
「えっ、ほんまか?」
『うん、ドキドキもムラムラもしない』
「ふーむ……」
和束ハルは考えるように眉根を寄せ、千歳に聞いた。
「あんた、今まで、誰かにドキドキかムラムラしたことあるか?」
『ないな』
和束ハルは天を仰いだ。
「あー、じゃああんたこの術式効かんわ。ゼロに何かけてもゼロや」
そ、そうか……千歳は本当に恋愛も性愛もないんだ……。
俺はものすごくがっかりしたが、千歳に悟られないように言った。
「あー、その、無理ならいいんで」
千歳はぶーたれた。
『ちゃんとしたのくれよ』
「これあかんなら……いや、その、相手わからんなら、やっぱり、不特定多数にモテるようにしかできんで」
『男にも?』
「男にも」
千歳は沈思黙考し、そして言った。
『……やめとく、友達とか幼馴染に狙われたら和泉がかわいそうだから』
俺はホッとした。
「そうそう、普通に暮らしたいんで変な術はいいです」
「うん、うちももう手は打てん」
和束ハルは頷いた。
ていうかこの人、さっきの術式わざと渡したな!? 俺が千歳の事好きってバレてるじゃん!
くそー、千歳以外にはバレバレなんだよな、俺の気持ち……。