望みがあるから断れない
千歳が、帰ってきて早々叫んだ。
『お前の好きな人を振り向かせる方法がある!』
「どういうことなの」
『ワシがモテた術式、相手を指定すればその人だけ惚れさせるのに使えるんだって』
「はあ」
『だから、和束ハルに頼んできた。お前の好きな人をお前に惚れさせてくれって』
「は!?」
あごが外れるくらい驚いた俺に、千歳はさらに言った。
『緑さんも南さんも、和泉さんが望むならそうしたらって』
「嘘だろ……」
緑さんも南さんも止めてくれよ……。
千歳は俺を揺さぶった。
『なっ、だから好きな人を言え!』
「いっ、言わない!」
『言わないなら言わないで指定の方法があるって言ってたぞ!』
「ま、マジかあ……」
俺の好きな人は、目の前にいるわけで……俺に千歳が惚れてくれたら……。
人の心を操るようなのはよくない、でも一瞬だけでも惚れてくれたら、何か変わるんじゃないだろうか……。
「……あの、術かけるの、一瞬だけですぐ解除できる?」
『ずっとかけたままでいいのに』
「人の気持ちを操るのはよくない」
『でも一瞬はかけるのか?』
そこを突かれると……弱い!
「俺は……聖人君子じゃない……」
うなだれる俺に、千歳は浮き立って声をかけた。
『まあいいや、じゃあ明日夜来いって言われてるから行こうな』
「う、うん」
どうなるのかな……期待半分、心配半分だ。




