特定の人を惚れさせたい
何日か経った。和束ハルが、モテモテ術の解呪術式ができたって。第三者の術式チェックも済んだってことだから、ワシは本白神社に解呪に行った。
和束ハルだけじゃなくて、緑さんと南さんもいて、みんなワシへのときめきでソワソワしてたけど。ワシが解呪術式に触れて霊力を流したら、みんなスッと落ち着いた。
『あー、ひどい目に遭った……』
思わずため息を漏らすと、緑さんが「お疲れ様」と言ってくれた。
『緑さんもう平気か? もうワシにドキドキしない?』
「しないしない」
緑さんは笑いながら首を横に振ったけど、ワシはまだ不安で、南さんにも聞いた。
『南さんもドキドキしない?』
南さんは微笑んだ。
「しなくなりましたよ」
『じゃあ大丈夫か』
和束ハルも見たけど、普通な感じで、ちゃんとドキドキしてなさそうだった。和束ハルはワシに頭を下げた。
「本当悪かったな、怨霊……」
『いいけどさあ、なんでモテモテ術式なんて作ったんだ?』
和束ハルは目を伏せた。
「高千穂さんともっとイチャイチャしたくて……」
『もう十分ラブラブだろあんたら』
「もっと上目指したってええやん!」
そんなこと話してるうちに、ワシはふと思った。
『なあ、モテモテ術式って、正しく使えば一人だけ惚れさせられるんだよな?』
「まあ、惚れ薬的な扱いできるで」
ワシは、とってもいいことを考えついた。
『じゃあさ、和泉の好きな人を和泉に惚れさせてくれ!』
「どないなっとんねん」
ワシは説明した。和泉は好きな人がいるけど、全然その人に告白しないこと。それに、好きな相手が誰なのか、絶対教えてくれない事。
緑さんはなぜか微妙に居心地悪そうで、南さんはなぜか目をらんらんとさせていた。ん? 緑さん恋バナ苦手なのかな? 南さんは恋バナ好きなのか。
和束ハルは了解したように頷いた。
「はーん……好きな人がいる言うのは、和泉豊が、あんたがおらん思て言った言葉か」
『そう言えばそうだな』
「で、かたくなに教えてくれないし、あんたも誰かわからんと?」
『うん』
「はーん……」
和束ハルは、緑さんをちらっと見た。
「まあ……ちっと考えはあるけど……なるほどなあ……」
『じゃあ頼む!』
「しっかし、オモロなってきたな」
『そんなに腕が鳴るのか?』
「いや、まあ、そう言うことにしとこ」
和束ハルは、なんだか笑みを含みながら言った。