まさかの素性を信じられない
夜。
VR藁人形の件について、Discordで俺のファンにお礼を言ったら、すぐ返事が来た。
[役に立ててよかった]
「本当にありがとうね、でも、君は何でこんなにいろいろできるの?」
[そうだな、話しておくべきか]
「教えてくれるなら、知りたいな」
返事が来るまで、しばらく間があった。
[私はネットに住まう【意識】なんだ。インターネット付喪神というべきか]
「インターネット付喪神!?」
[インターネットは長年使用され、数限りなく祈りを捧げられた。私のような存在が生まれてもおかしくはない]
本当!? 若いハッカーがイキってるだけじゃなくて!?
いや、でも、俺の周りには怨霊も悪霊も化けぎつねも化け狸も普通にいるしな……付喪神を信じない理由は、ない……。
とりあえず、この人はインターネット付喪神だということにして話を進めよう。
「VRchatで会うのが直接会うことだっていうのは、ネットにしかいないから?」
[その通りだ。一応、ネット接続のロボットなどがあればそれを操作することはできるが]
「なんでそんな、インターネット付喪神さんが俺のファンになったの?」
[最初は、電気以外のエネルギー源を探して、金谷千歳氏に目をつけた。そして、あなたを見つけたんだ。性格ひとつで荒ぶる怨霊を鎮め、それでいて、怨霊の力を私利私欲に使わないあなたに]
「まあ、俺、特異能力はないけど」
性格ひとつで千歳を鎮めた……まあ、確かに俺、特別な力はないからな、性格だけと言えるのかもしれない。
俺のファンは話を続けた。
[あなたはネットに精通しているし、個人特定もお手の物だが、決してそれを悪用しない。そんな良識に、私は惚れ惚れしたんだ]
「別に大したことじゃない、やろうと思えば誰でもできる方法だし、遵法精神の高い人はたくさんいるよ」
[しかし、怨霊を鎮める性格の良さと、ネットへの精通と、事を荒立てない良識を併せ持つのは、あなたくらいしかいない]
「褒めても何も出ないよ?」
[そして、私の目的を伝えたい]
「何?」
[私はあなたの良識に惚れた。あなたのような存在と私を融合したい。つまり、私と結婚して子供を作ってほしいんだ]
結婚!? 子供作る!? えっこれプロポーズ!?
……いや、実体のない相手とどうやって作れっていうんだよ。
「落ち着いて、何をどうしたら実体のない人とそんな事ができるの」
[あなたの振る舞いと思考を全て電子に落とし込んで、それと私のコピーを融合させる]
「マジか」
それ、千歳の思う【子孫】になるのか?
……いや、俺、この人との子供が欲しいかと言うと否だな。千歳と養子を育てる、の方がうれしいし、そっちのほうがまだ可能性なくもないし……。
……俺は、千歳とそういうことがしたい。結婚も子育ても、千歳以外の人とやる気は起きない。
俺は思案し、そして返事した。
「あのね、あなたと結婚はできない。子供を作ることもできない。俺にとっての千歳の存在を無視するのは、あまりにも片手落ち」
[そういうことは、金谷千歳氏としかしたくない?]
「まあ。千歳の存在を無視するのはちょっとね、君は色んなことができるけど、ちょっとまだ未熟だね」
[未熟な存在と結婚はできない?]
「それもあるし、君が欲しいのは俺のジーンじゃなくてミームじゃない?」
[それは、確かにそうだ]
「俺の振る舞いは見えてるんだろ、そこから存分にミームを学んでよ」
[あなたと、あなたの大事な人から学ぶことにするよ]
「いや、千歳の個人情報抜かないでよ!?」
[抜かないが、あなたを構成する要素として金谷千歳氏を軽んじていたことは否めない。金谷千歳氏の存在を踏まえて、あなたを捉え直してみる]
「まあ、それなら」
俺はこの人と結婚も子作りもしたくないが、俺から学びたいと言うなら、別にいいよ。せいぜい、良識ある行動を心がけよう。