流石にこれは怒りたい
俺は、信じられなくて問いただした。
「……俺のファンの人?」
やっぱり子供!? いや、作った姿だよなこれ、じゃなきゃこんなに千歳に似ない。
銀髪緑眼の人物は[そうだ]と頷き、胸を張るようにした。
[あなたに好まれそうな姿を作っただが、どうだろうか?]
あっよかった、やっぱり作った姿だよな。まあ、確かに千歳に似てる人に悪感情抱きにくいけども。
「うーん、まあ千歳に似てるけど……でも千歳じゃないなとは……」
俺のファンは、とんでもないことを言った。
[金谷千歳とあなたの外見のいいとこ取りをして作った」
「は!?」
千歳に俺を混ぜたの!? だからユーザー名金谷ユタカ!?
俺のファンは嬉しそうに続けた。
[声はあなたの子供の時を再現した。あなたは金谷千歳と子作りがしたいようだから、2人を混ぜた外見なら好かれるかと思って]
「ちょっ、まっ……おまっ……」
俺は、お前この野郎、と言いかけてこらえた。俺が千歳とセックスしたいと見抜いて、千歳と俺を混ぜた人の姿を作るって、アウトすぎるしグロテスクすぎる!!
俺は、自分でもびっくりするほど大きな声を出してしまった。
「ふざけるんじゃない! 確かに俺はそういうことも望んでるけど、だからってこんなグロいことするな!!」
[えっ……]
俺のファンは、本当に俺に喜ばれると思ってたらしい。あっけにとられた顔をした。そして、おろおろしだした。
[だ、ダメだっただろうか……喜んでもらえると思ったんだ……]
悪意はなさそうだけど、だとは言え! だとは言え!
「だいたい、俺はそういう気持ちを必死に隠して抑えてるんだよ! それをこんな、こんな!」
目の前のワールドに集中していたので、近くの『和泉!? 和泉!? どうした!?』の声にやっと気づいた。うわっ、千歳近くにいるんだった、どうしよう!?
俺は慌ててゴーグルを外し、「ご、ごめん、大きな声出してごめん!」と千歳に叫んだ。
『どうしたんだよ』
「ちょっ、ちょっとトラブルが……俺のファンがちょっと……」
『中で何かやらかしたのか? ワシが行ってシメてやるよ』
千歳はもうワールドに入る準備を整えていて、俺が止める間もなく丑の刻参り神社に入ってしまった。そして、俺のファンを見て、驚きの声を上げた。
『わっ、なんでワシに似てるんだ!?』
俺は大声をあげてしまった。
「あー!! わー!!」
こんな人の姿、千歳にだけは見せたくなかったのに!
俺のファンは、[すまない]と千歳に言い、居住まいを正した。
[和泉氏に喜んでもらえる容姿を作ったつもりだったのだが、失敗したようだ]
『ワシの格好が? え、でも、なんかちょっと和泉にも似てるな』
[和泉氏とあなたの容姿のいいとこ取りをした]
俺のファンが決定的なことを言い出すので、俺は思わず「ああー!!」と叫んでしまった。
しかし、千歳は反応が薄かった。
『へえー。おい、和泉、なんでさっきから騒いでるんだ?』
「えっ、いや、だってその……」
千歳がなんとも思ってなさそうなので、俺は急速に鎮火してしまった。
千歳は俺のファンに言った。
『よくわかんないけど、ワシの名前と和泉の名前合体させたからって見た目も合体させるなよ、安直だな』
[そうか……そんなに評判が悪いとは……]
俺のファンはうなだれてしまった。千歳はまた話しかけた。
『あんた、和泉のファンの人だよな?』
[その通りだ]
『こんなまだるっこしいことしなくても、ファンなら直接会いにくればいいじゃないか』
[それは難しい。私の物理的身体は不自由なんだ]
俺は、嫌な予感がした。ネットにズブズブ、それはネットにつながる以外できない、身体が不自由な人なのでは、と。
俺は俺のファンに思わず話しかけた。
「あの、どっか体悪いの……?」
[不調というものは感じたことはないが、私はネット上のほうが自由なんだ]
体が不自由なのが当たり前な人……?
俺のファンは、改めて頭を下げた。
[いきなりで済まなかった。一度普通に会って話してみたかったんだ。容姿については検討し直すが、今すぐにできることではないので今はこれで許して欲しい]
千歳は首を傾げ、あっさり言った。
『いや、別にいいけど。ワシと別人に見えるし』
俺は驚いた。
「えっ千歳いいの!?」
『え、お前なんか嫌だったのか?』
「あっいや……うん……千歳が気にしないから俺はそれでいいです……」
千歳が気にしないなら俺もそんなに怒る理由がない……まあ俺の千歳への気持ちは傍から見てバレバレみたいだし……。
千歳は勝手に得心していた。
『あっ、お前怒ってたの、ワシの顔勝手に使われたからか? 別にいいよ、別の人に見えるからなりすましとかされないだろうし』
「そ、そう……」
体から力が抜けてしまった。千歳がそんなに気にしない人だったとは……。
俺のファンが千歳に聞いた。
[では、これからもこの顔を使ってもいいだろうか?]
『いいよ』
俺も、不承不承ながら頷いた。
「うん……まあ、千歳がいいなら……」
俺のファンは嬉しそうに微笑んだ。
[ありがとう]
くそっ!千歳に似た顔で喜ばれると何も言えない!
俺のファンは、改めて話しだした。
[私がやれることを言いに来たんだ。VRChatのユーザーコミュニティーへの呼びかけについて、私ならさらに抜けや漏れ無くできる]
「それは助かるけど」
俺が頷くと、俺のファンはまた言った。
[それと、各ワールドにおいて、藁人形オブジェクトを捜索・収集・削除するシステムも構築している。さらにユーザーに危険を呼びかけて、見つけた藁人形はあなたたちに送ろう]
「多分、それは金谷あかりさんに送ったほうがいいやつだな……」
[ではそうする。しかし、探している魂が引き出せそうな藁人形を見つけたらどうする?]
「あるの?」
『あるのか!?』
俺と千歳は身を乗り出してしまった。
[ただの勘だが、オリジナル、すなわちBOOTHに上げられた1番目の藁人形のデータならできるのではないかと思っている。BOOTHのさくら系アカウントは見つけ次第凍結しているが、BOOTHのサーバーからオリジナルを見つけたらアクセス方法を送ろう]
「なるほど……うん、でも俺たちだけでやるとややこしくなるから、一旦金谷さん通して。できるかどうかも分からないし」
[了解した。では、作業に移るよ。会えてうれしかった。できればまた会いたい]
俺は、俺のファンに飴をあげて協力してもらわないといけないことに今更気づいた。さっき声を荒げるんじゃなかった……。
「どこに行けば会える?」
[あなたのみ招待するワールドを立ち上げておく。準備ができたらあなたのアカウントに送るよ]
「わかった」
俺は頷いた。今使ってるゲーミングノートパソコンは借り物だから、俺もVRchatがカクつかないパソコン買おうかな、今月二十万臨時収入あるし……。
[では、また]
俺のファンは、あっさりと消えた。俺はゴーグルを外し、横を見ると千歳もゴーグルを外しているところだった。
『びっくりした!あんなに精巧な格好作れるんだ!』
「一応技術はあるらしいけど……3Dスキャンとか……」
VRchatから出て、俺はぐったりしてしまった。俺のファンはあまりにも予想外の姿を選んでいたので。
……千歳の受け止め方はそれでいいが、俺はやっぱり受け入れがたい部分がある。後で一言入れとこう、言葉は選ぶけど。