番外編 金谷千歳とVR
和束ハルからLINEが来た。
「もし時間あったら、午後に茶を飲みにこんか? いいお菓子あるで、渡したいものもあるし」
『行くー』
和束ハルはすっかりおとなしいから、ワシは和束ハルのこと、もうあんまり怖い存在と思ってない。嫌いでもない。でも、渡したいものってなんだろう?
そういうわけで、昼下がりに本白神社の裏の和束ハルんちにお邪魔した。
『こんちは! 来たぞ!』
「その辺座っといて、今茶出すわ」
和束ハルが台所近くのテーブルを示すので、ワシはおとなしく座った。
アイスティーと、チョコがけサクサクミルフィーユ、バターサンドクッキー。喜んで食べていると、和束ハルが「最近な」と切り出した。
「VRchatでまたなんか起きとるらしいな?」
『うん、和泉も調べてるんだけど』
「それでな、うちのVRゴーグルとゲーミングノートパソコン貸したろか思てな。ちょうどふたつあるし、あんたも入ってみたらええ」
『ゴーグル? ゲーミング?』
意味がよくわかんなくて、ワシは首を傾げた。和束ハルは「あー、あんたその辺うといか」と顎に手を当てた。
「VRゴーグルは、視界全部VRchatのワールドが見えるやつやな。ゲーミングノートパソコンは、重いゲームしてもカクつかんパソコンや」
まだよくわかんないけど、そんな特別な器具、結構高いんじゃないか?
『なんかいいやつっぽいけど、そんなん借りていいのか?』
「ええって。うちも、母親がやらかしてるとなるとちょっと責任感じるしな。でも壊すんやないで」
和束ハルは「ちょい待ってな」と奥に行き、おっきい袋をふたつ持ってきた。
「こっちパソコン、こっちゴーグル。パソコンはまっさらにしてあるからな、返すときはまっさらにしてな」
『和泉にやり方聞いとく。てか、なんでこんなの持ってるんだ?』
「うちがここから出られんから、外出る気分になろうって高千穂さんが揃えてくれたんやけど、うちが人形遠隔操作できたからホコリ被るだけでな。2人で相談してあんたらに貸したろうと」
『そっかあ、ありがとう』
なんだ、このために呼んだのか。先に言ってくれればいいのに。
パソコンとゴーグルを持って帰ったら、和泉は「そんな高いのを!?」と驚いていた。
「いくらするんだ?」
「下手すると、これ全部で50万とか」
『そんなに!?』
ゲーム用のおもちゃにそんなにかかるのか!?
和泉は「じゃあ、ありがたく使わせてもらおう」と袋をのぞき込んだ。
「設定しないとな……説明書もちゃんと読まないと」
『なあ、ワシもこのゲームやってみたい』
なんか役に立つかもしれないし、別世界が見れるゲームって興味あるし。
「じゃ、夜、2人別々にアカウント作ろうか」
和泉が仕事を済ませて、夕飯食べて、夜。
和泉はパソコンを立ち上げて、スチームってところのアカウントを作って、VRchatってゲームをダウンロードした。ワシも見様見真似で同じことした。パソコンとゴーグルをつなげて、ホームっていう自分だけのところで、しばらく操作方法を練習。
『ゲームって面白いな!』
広くてゆったりできる、バーチャルの自分の部屋、いいな。
「まず初心者向けワールド行ってみようか、基礎知識も書いてあるらしいし」
和泉が操作を教えてくれて、初心者向けワールドってところに行ってみた。回廊に操作方法その他の説明があって、ワシはVRchatってどんなところか何となく理解した。本当に広いワールドがたくさんあって、自分の好きな姿になれるんだ。
ワシは、自分のアバターを見下ろした。白いロボットみたいな体。
『この格好味気ないな。お前、なりたい姿とかないのか?』
「ないわけじゃないけど、この件に関しては初期アバターで行くかな」
『なんで?』
「パッと見で初心者ってわかるじゃん。多少拙くても他の人は見逃してくれるかなって」
『なるほどー』
じゃあワシもこのまま行こう。
それから、習うより慣れろで、ワシは和泉と2人で別のワールドを散策した。
夜空に星がきらめくワールド、なんの植物かもわからない草原。荘厳な建物が遠くに見える。
『わーすごい、本当に別世界いるみたいだ!』
「ここに来て仕事する人がいるの、わかるな……」
VRchatの中で、それなりに動けるようになった。これでVRchatの操作はわかったけど、こんなに広い世界がたくさんあるゲーム、どうやって探せばいいんだろう?
和泉に聞いたら「人がたくさんいるところに周知したし、あとは集合知かな……」と言った。
「集合知?」
「まあ、三人寄れば文殊の知恵の人数が多いバージョン。知ってる人がいればタレコミも期待できるし」
『ふーん』
和泉も探すつもりみたいだけど、タレコミを待つしかないのかなあ。