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身分証明作りたい

引越し先の不動産屋と、入居契約について電話で打ち合わせしている。コロナ禍は本当に嫌だが、非接触のやり取りで大事な話が済むことが増えたのは、在宅仕事としてはありがたい。

「では、引越し日は十月一日ということでよろしいですね?」

「はい、よろしくお願いします」

「入居にあたっての書類や、提出していただく和泉さまの身分証明書のコピーについては、郵送で大丈夫です」

「わかりました」

「それと、ご同居の方の身分証明書のコピーもよろしくお願いいたします」

ご同居の方の身分証明……え、千歳の身分証明!?

何もないぞ、保険証も運転免許証も住民票もマイナンバーカードも! そもそも戸籍がないから、作れもしないぞ! え、どうしよう?

「……すみません、同居の人間、運転免許証とかマイナンバーカードがなくて、あと住民票もここのがないんですが……何か代用になるものとかありますか?」

保険証や戸籍がない、とまで言うと、不法滞在者か何かだと疑われそうなので、それは伏せて、無難なことだけ言ってみた。

「そうですね、在職証明書などでも大丈夫です。会社やアルバイト先で発行してもらえます」

……千歳、どこかに勤めてるわけじゃないしな……これもダメか……いや待て、一応サブスク除霊屋ということで、何かあったら、金谷さんの実家と仕事することになってるし、そのよしみでなんとかならないだろうか? 今の所、書類上で金谷さんちと提携してるのは俺とだけだけど、メインで働くのは千歳だし、なんとかならないだろうか?

俺は、とりあえずこう言った。

「……同居人の分は、在職証明書が出ないか調べてみます。他の書類は揃いますが、同居人の身分証明書で時間かかると思います」

「承知いたしました、入居日まで余裕があるので、多少は大丈夫ですよ」

「ありがとうございます」

電話を切り、俺はため息をついた。また金谷さんに相談しなければならない。何度も相談しちゃって、悪いなあ。

電話の内容を聞いていたらしい怨霊(黒い一反木綿のすがた)(命名:千歳)が心配そうに寄ってきた。

『引っ越し、ワシの身分証明書なんかがいるのか?』

あんまり千歳が不安そうな顔をするので、俺はなるべく安心させたくて、金谷さんにすべてをぶん投げる発言をした。

「金谷さんに相談するから、たぶん大丈夫だよ」

『そうなのか? 引っ越せなくなったりしないか?』

「大丈夫、仕事してる先に出してもらう在職証明書があればいいって言われたし、千歳、実質的に金谷さんちと仕事の契約してるわけだから、その線でなんとかしてもらおうと思って」

そう言うと、千歳はほっとした顔になった。

『ちゃんとあの部屋に引っ越せるんだな? あの部屋気に入ったから、別の部屋は嫌だ』

「もう千歳、家具の配置とか決めてるしね」

でも、仮に別の部屋にせざるを得なかったとしても、千歳の身分証明はいるだろうからな……。

善は急げと、金谷さんにLINEで事情を連絡した。すぐ返事が返ってきた。

「和泉さまとの契約内容を少し変更して、和泉さまとの契約だけでなく、千歳さんを私の実家で雇用する形にすれば、数日で在職証明書は出せます。それと、これに関連して提案させていただきたいのですが、千歳さんに戸籍を作りませんか?」

半ばまで読み進めてほっとし、最後まで読んで首を傾げた。どうやるんだ?

追加で返事が来た。

「もちろん、戸籍に伴っての出費、住民税や保険料、年金料はこちらでまた出せますから」

「それはとてもありがたいですが、どうやって戸籍作るんですか?」

「世の中には無戸籍の人がいるので、そういう人が戸籍を初めて作るときの手続きに則ります。普通は早くても三ヶ月かかるんですが、こちらでもいろいろ働きかけるので、もう少し短くできると思います」

千歳に戸籍ができる。そうすると、住民票取れるし、マイナンバーカードも作れるし、だとすると銀行口座を作れるし、スマホ本体さえあれば自分名義のスマホも持てるな……。戸籍を作ることで出ていくお金はちゃんと補填してもらえる、となると、いいことばかりだ。

俺は返事した。

「千歳のことなので、千歳に説明してから決めてもらいますが、俺としては戸籍作って欲しいです。今から千歳に説明して、また連絡します」

俺は台所で作業していた千歳(女子大生のすがた)の所へ行き、金谷さんからのLINEを見せつつ説明した。

「というわけで、引っ越しは大丈夫だし、俺たちにかかる費用なしで千歳の戸籍作れるって」

千歳は首を傾げた。

『引っ越しが大丈夫なのは嬉しいけど、戸籍作って何か得があるのか?』

「いろいろあるけど、各種身分証明が作りやすくなるし、それで千歳名義の銀行口座も作れるから、今のタンス貯金を口座に入れられるよ」

千歳が気にしていたことを踏まえて、千歳の得がわかりやすいように説明すると、千歳はうなずいた。

『じゃあ、戸籍作ろうかな』

「じゃ、金谷さんにお願いしますって返事しとくね」

『わかった』

金谷さんに、千歳が希望しているので戸籍作成もお願いします、とLINEした。すぐ既読がついたが、返信が来なかった。金谷さん、こういう時、承知しましたとか、わかりましたとか返事する人だと思うけど、どうしたのかな?

とりあえず仕事に戻ることにして、三時間くらい作業していたら、金谷さんから返事が来た。

「バタバタしていて、お返事が遅れて申し訳ありません。戸籍関連で、和泉さまと千歳さんにいろいろお話したいというか、選んでいただきたいことがあるのですが、三人でお話する場を設けられませんか?」

この話は2022年夏頃が初出です

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