番外編 金谷千歳と男避け
運転免許の仮免。技能講習12時間で済むところを、和泉は16時間かかって、そしてついに。
「仮免取れたーっ!!」
喜ぶ和泉を、ワシは軽くどついた。
『遅いよお前、ワシ本免の方入っちゃったぞ』
「申し訳ない……」
和泉は、本当に申し訳なさそうに頭を下げた。
『まあ、本免も頑張れ』
「夏休みをつぶして頑張ります……」
『もうつぶしただろお前』
和泉は、8/12から8/15まで夏休みをもらって、8/9からの土日と8/16からの土日合わせて、8日間免許の講習受ける言ってた。でも、8/16でやっと仮免だからな……。
まあでも、仮免取れたら本免も大丈夫だろ。
『無事に仮免取れたしさ、夜、駅前の祭り行こうよ』
「ああ、あの大きい公園の」
『そうそう、ぱっと遊ぼう!』
そういう訳で、駅前の公園の大きい夏祭りに2人できた。
近所の公園のお祭りよりずっと屋台が多い。金魚すくい、射的、当たりくじ、りんご飴、たこやき、やきそば、綿あめ……。その分、人も多い。老若男女、夏休みなんだろうなっていう小中学生も遊び騒いでいる。
二人で屋台の並ぶ中を歩いていると、和泉がしみじみと言った。
「俺さあ、またこのお祭り来れてよかったよ」
『そうか?』
「去年さ、これが人生最後のお祭りだと思ってたからさ……」
『…………』
そうだった、去年の8月、和泉はずっと大変だった。ものすごく大変だった。ただ死を待つばかりだった……。
なんと言えばいいかわからなくなったけど、とりあえずワシは正直なところを言った。
『えっと、その、ワシ、今年お前と来れてよかったと思う』
「うん……」
『だからさ、いっぱい楽しもうな』
笑いかけると、和泉も笑った。
しかし、人がいっぱい、屋台に並ぶ列もいっぱい。食べたいものたくさんあるのになあ。
『ワシ、焼きそばも綿あめもりんご飴も食べたいけど、どこも混んでる』
「手分けする? 俺も焼きそば食べたいから、焼きそば2つ買ってこようか?」
『じゃあ頼む』
和泉は焼きそばの屋台に向かって、ワシは綿あめの列に並んだ。
一人で屋台の列に並んでると、知らない声に「ねえ君!」と言われた。
見ると、高校生くらいの男のグループがいた。
「君! 1人?」
『ん? ワシ?』
ワシが自分を指差すと、男どもは頷いた。
「そう君! その、俺達と一緒に屋台回らない?」
え? 何だこいつら?
一瞬後、ワシはパッと見女で、しかもすごく顔がいいことを思い出した。あ、ナンパか、これ。めんどくさいな……。
ワシは、綿あめを後回しにすることにした。
『ごめん、連れがいるから!』
列から抜けて、焼きそばの屋台の方へすっ飛んでいく。和泉が焼きそばの袋受け取ってるところだったので、ワシは塞がってない方の和泉の手を掴んだ。
『悪い、来てくれ』
手をつないだだけなのに、和泉はものすごく驚いて、あわあわした。
「どっ、どしたの!?」
『ナンパされてさあ、めんどくさいから』
「えっ、そうなの!?」
『一緒に並んでくれよ、綿あめの列』
「う、うん」
和泉の手を引いて、ワシは改めて綿あめの屋台の列に並び直した。
和泉はなんだか、ずっとそわそわしている。
「その、千歳、見た目本当にかわいい女の子なんだから気をつけてね?」
『本当は女じゃないから、なんかあってもぶっ飛ばせる、平気だ』
「いや、確かにそうだけど、なるべくぶっ飛ばさないような方法をとってよ」
『だから、お前を引っ張ってきたんだろ?』
和泉は、一瞬目を見開いた。
「……それも、そっか……」
和泉は、ワシの手を握り返した。
「いつでも男避けに使って」
『うん』
和泉はなんでか嬉しそうで、ワシは、こいつそんなに綿あめ食いたいのかなあって思ったんだ。