閑話 夏の花
夜、狭山さんのDiscordサーバーで歓談してるとき。狭山さんから要請があった。
「和泉さん、だいたい毎日散歩してるんですよね?」
「そうですね」
「僕、運動不足極まってて、歩いたほうがネタも出るし、一度和泉さんの散歩付き合わせてもらえませんか?」
「いいですよ、でも朝早いですが」
「何時くらいです?」
「朝5時半出発ですねえ」
「5時半!?」
驚かれたが、それなりに理由があるのだ。
「この時期だと、それくらいじゃないと暑くて。もっと暑い日は5時です」
「まあ、そうですね……」
そう言うわけで、翌朝5時半、千歳と一緒に坂の下のマンションまで狭山さんを迎えに行った。狭山さんは眠そうな顔で出てきたので、俺は聞いた。
「大丈夫です?」
「起きたばっかなんで……寝たことは寝たんですが」
千歳が元気に言った。
『歩けば目ぇ覚めるよ!行こう!』
狭山さんはメガネを上げて目をこすりつつ言った。
「どういうコースですか?」
『朝顔見に行って、ひまわり見に行って、カンナ見に行って、芙蓉見に行って、ランタナ見に行く』
「へ?」
訳わかんなくなってる狭山さんに、俺は説明した。
「祖母に贈る花の写真撮ってるんで、いろんな生垣とか庭先の、花撮っていい場所巡ってるんですよ。朝顔とか、今ちょうど咲いてる花なんで」
「はあー、なるほど……」
この辺は住宅街で、庭やフェンスからこぼれるように咲く花が結構ある。公園も探せば結構花がある。花一輪一輪を接写すると、結構見られる写真が撮れるのだ。
俺は狭山さんに言った。
「ここから近いのは、公園の近くの芙蓉なので、まずそれ見に行きましょう」
「うわー、近所の花マップ頭に入ってるんです?」
「まあ多少」
薄紫の芙蓉、少し盛りを過ぎたひまわり、元気に咲く藤色の朝顔、真っ黄色に咲くカンナ、可愛らしく小さく咲くランタナ。そんな花々の写真を撮りながら行くと、狭山さんは感心していた。
「近所にこんなに花があるなんて、これまで目に入りませんでしたよ……」
「まあ、気をつけてみないとわかりませんよね」
千歳が笑って言った。
『和泉、すっごく写真うまいんだ、老人ホームでも会社でも褒められてるんだ』
「えっ、見せてください」
スマホ撮りなので大したものではないが、俺が狭山さんに写真を見せると、えらく感心された。
「はー、うっま! こんなきれいに撮れるんだ!」
「まあ、多少は慣れてるので」
「これは、おばあさんに送ったら喜ばれますよ」
俺は照れてしまった。
「なんか、引き伸ばして張ってくれてるみたいなんですよね、老人ホームの中で」
「すごい……」
友人と好きな人とで、連れ立って散歩。千歳と会うまで、俺の人生にこんな事が起きると思わなかったな。
願わくば、閻魔大王様からの頼み事も、和束母娘のことも、大きなトラブルなく解決できますように。




