のぞかれてても仕方ない
千歳が起きるのを待ちつつ、千歳が起きたとき食べさせる用の料理を作ったあと。俺のファンから返事が来た。
[相手は口コミで存在を広めているようだ、ヤフオクとメルカリのアカウントが消される前に、これまでの購入者に各サイトのアカウントのヒントを知らせていたらしい]
悪質!
俺はすぐ返事した。
「別のサイトでも複垢たくさんあるだろ、購入者に別垢あるってヒントだしてるかも」
急ぐあまりスラングを使ってしまった。BOOTHその他サイトに複数のアカウントがあるから、BOOTHその他の利用者にも別のアカウントのヒントをだしているかもと言いたかったのである。
俺のファンからの返事はこうだった。
[各サイトのヒントを調べている、どうやらバラの品種の名前ですべてのアカウント名を統一しているようだ]
「ローズアカウントが元だからか」
マイカイカも、多分バラつながりだ。漢方で薬膳茶に使うバラの一種に、玫瑰花というのがある。
[アカウント名をランダムにつけるのは意外と難しい。それに、統一したほうがヒントでまとめやすいだろう]
「それはそうだね」
[あなたは忙しいのだろう? 私が働くし、アカウントのまとめと通報はすべて私がやっておく。仕事と運転免許取得に注力してくれ]
おい、また聞き捨てならないことを言ったな!?
「ちょっと待って、俺、運転免許取ってるなんてあなたに言ってないよね?」
[あなたは教習所に通っているし、現在免許を持っていないから]
おい!! どこで調べた!! あっグリーンライトに履歴書Webで渡したことある! あとスマホのGPSか!?
「やってることストーカーだよ!?」
[しかし、あなたをモニタリングしていれば私はすぐあなたの危機に対応できる]
くそっ! この件で頼りにしてるから、相手の機嫌を損ねちゃいけない!
「あのさ、俺のことは多少なら許すけど、多少だからね!? 俺のネット履歴とか見ないで! あと、他の人にもこんなことしちゃダメだよ!? 特に千歳!!」
[了解した。しかし、和束母娘にたどり着けば似たようなことはするかもしれない]
「それはまあ、例外だけども」
あ、そう言えば、この人に伝え忘れてたことがある。
「和束母娘にはさ、もう1人協力者がいるかも知れないんだよ」
[それは初耳だ]
「メルカリの藁人形の梱包についてた指紋を調べてね、指紋の数的に、和束みやびと和束美枝以外にもう一人いそうなんだ。和束美枝さんはある程度引いたけど、今現在の売り方はある程度のネットスキルが必要だから、ネットスキルがある人がもう一人いるんだと思う」
[なるほど、引き続き調べる。ローズアカウントについても任せて欲しい。見つけ次第片っ端から複数アカウントで通報する、宗教的に害があるものだと言って]
「ありがとう」
まあ、事情を知ってるという意味では話が早いんだよな。しかし、俺、常に俺のファンに見られてるのか……。
いや、うん、直接的な被害はないし……千歳には被害行かないわけだし……。
とりあえず、金谷さんに現状の連絡を入れておく。俺のファンについては、藁人形その他呪いグッズを売っているアカウントは全て教えてほしいと伝えてくれのことだ。
千歳は夜に起きてきた。
『悪い、めちゃくちゃ寝てた』
「いいんだよ、疲れてたんだろ? お米炊いてあるよ、あとお昼のパンと、肉野菜炒めとお味噌汁ある」
『食べる!』
千歳は目を輝かせた。
「パン食べてな、他の用意するから」
『うん!』
千歳は食卓に置いておいたパンの袋を引き寄せ、パンを取り出してもぐもぐし始めた。そして、袋の中身をのぞき込んで、首を傾げた。
『あれ? お前サンドイッチ食べなかったのか?』
「あっ……お昼食べ忘れてた」
千歳は呆れた。
『お前! ワシがいないとろくに飯食わないな!』
「いや、その、いろいろあったんだよ、食べながら話すから」
料理を並べ、二人で夕飯を食べる。俺は食べながら、藁人形の販売状況と、俺のファンが調べたことを話した。
『そいつ、確かにめちゃくちゃ頼りになるけど、お前そんなに覗かれて大丈夫か?』
「あんまり大丈夫じゃないけど、藁人形で被害受ける人の命と俺の情報で言ったら、俺の情報のほうが軽いし……」
さらに言えば、スマートウォッチを付けなければいいわけだが。千歳がせっかくくれたものを使わないでしまっておくのは嫌だしなあ。
俺は、大きくため息をついた。ネットのことに関しては、プライベートはChromeのシークレットモード使う、くらいしか対処できない。仕事も生活も、もうネットなしでやっていくのは無理なわけだし……。
ただ、ネットなしでもうやっていけないのは和束みやびも同じだ。本人のネットスキルはなさそうだが、ネット販売で生計を立てようとしているのは確実なわけだし。
だから……俺のファンには、俺の情報という飴をあげて、できるだけ協力を仰ごう。