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自分で生計立ててほしい

 夜、ひさびさにおばあちゃんとビデオ通話をしている。

 おばあちゃんがスマホ画面の向こうでにっこりした。


「ひさしぶりねえ、いつもお花の写真ありがとうねえ」

「うん、近所で割と撮れるから」

「千歳さんと仲良くやってる?」

「そりゃもう」


 そんな事を言っていると、ソファで横に座っていた千歳が、俺にぐっと近づいてカメラの画面に入って笑った。


『仲良しです!』


 おばあちゃんはうれしそうだ。


「あらあ、本当にありがとうねえ、豊ちゃんをよろしくねえ」


 そんなこんなで、俺とおばあちゃんはしばらく近況報告した。俺は仕事で軽井沢に行ったこと、運転免許を取ること。さすがに、閻魔様に頼まれて魂十体探してるとは言えなかったが、千歳と一緒にしてる仕事もある、とは話した。

 おばあちゃんは栗田さんと老人ホームの友達と楽しくやっているそうだ。誕生日イベントや季節ごとのおやつとごちそうがあり、それが楽しみなんだって。


「特に変わったことはないけど、何事もないのが一番よお」

「それは本当にそうだね……」


 俺は頷いた。俺も、千歳と何事もなく平和に暮らしたいんだけども……。なぜか向こうからトラブルがやってくるんだよな……。

 あ、そうだ、おばあちゃんに言ってないことがあった。それ関連で、頼みたいこともある。


「そうだ、あのね。俺、年内に千歳が買った家に引っ越すんだ」

「そうなのお!?」


 おばあちゃんは目を丸くした。


「その、千歳が宝くじに当たったようなもんだと思ってくれればいいんだけど、とりあえずそのお金でさ、今のアパートの向かいの家一括で買ってね」

「まあ、まあ、まあ」

「わりとかわいい家だよ」

「まあ、写真見せてほしいわあ」

「うん、外観は出来てるから撮って送るね。それで、俺も千歳もお金困ってないから、頼みがあるんだけど」


 ここからが本題と言っていい。おばあちゃんは「なあに?」と首を傾げた。


「あのさ、おばあちゃん、前に俺に遺産くれるって言ったじゃん」

「そうよお」

「それをさ……やっぱりお父さんにあげることにしてほしいんだけど」

「まあ、そうなのお?」


 おばあちゃんは意外そうだ。


「あの、俺、正社員になったし、千歳も結構収入あるし、経済的に困ることはなさそうなんだ。で、多分、お父さんのほうが経済的に困る可能性高いから」

「まあ……」

「お父さんたちはああ言う事してたから、俺は将来的にあんまり経済的援助とかしたくなくてさ……そりゃ、連絡くらいは取るけど……」

「そうなのお……」


 おばあちゃんは口元に手を当てた。


「ダメかな?」

「ううん、大丈夫よお。栗田さんに相談して、そこら辺はちゃんとしておくわねえ」


 おばあちゃんは、俺を安心させるように笑った。俺は頭を下げた。


「ありがとう。ごめんね」

「ううん、なんにも謝ることなんてないのよお、おばあちゃんは豊ちゃんが楽しく暮らせてるだけで十分よお」

「うん、ありがとう」


 そんなこんなでビデオ通話を終えると、横で聞いてた千歳が言った。


『お前、あんな父ちゃんと母ちゃんのことまで考えて本当えらいよ』

「えらくはない、自分のお金で世話してたらえらいだろうけど」

『いや、えらい。縁切ったっておかしくないのに、ちゃんと考えてやってるのはえらいぞ』


 千歳が真剣に言うので、俺は少し笑った。


「じゃあ、えらいことにしとこう」


 自分の稼いだお金は、なるべく千歳と自分の生活を守るために使いたいからな。まあ、千歳の稼ぎと比べたら、俺の稼ぎなんて屁みたいなもんだけどね。

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