揺さぶりかけて止めさせたい
軽井沢から帰り、俺は仕事、千歳は家事と日報の日々に戻った。呪いの藁人形の件と和束母娘に関しては、新たな情報を待つしかできないし。
そんな普通の日々。朝食で千歳がご飯をほおばり、『うーん』と渋い顔をした。
『まだちょっと固いなあ、水増やしたんだけどな』
「水多いのに固いの?」
俺もご飯を食べてみると、確かに少し固めだ。
『今日から備蓄米にしたんだよ、味は大丈夫だけどかなり水多めじゃないとダメだな』
「味は普通においしいね」
『うん。あ、今日星野さんがナスときゅうりくれるから、なんか食いたいものあったら作るぞ?』
「じゃあ、叩ききゅうりと浅漬け食べたい」
『おっけ』
所帯じみた会話。こんな風に、ずっとおだやかに暮らせればいいのだが。
朝食を済ませ、俺は仕事に集中したが、仕事が終わって夜にLINEをチェックすると、金谷さんから連絡が入っていた。
曰く、藁人形に入っていた骨は人骨と確認が取れたそうだ。形状からして、おそらくは嬰児の大腿骨の一部とのこと。火葬でこんなにきれいには残らないから、事件の可能性が高いとして警察が動くそうだ。
嬰児の骨。和束みやびがやっていることを考えて、オレは天を仰いだ。嬰児を、殺しているのだ、やはり。
金谷さん側からも、和束母娘の情報を警察に渡したとのことだ。軽井沢で藁人形を使った人は見つかって、彼女はやはり、メルカリのローズアカウントから藁人形を購入していた。
藁人形が売られている理由は、和束みやびの金策ではないか、と言われているそうだ。和束みやびは、疑いかけられて仕事干されてるからな……。
金谷さんは金谷さんで、だいぶ大変らしい。
「もうかなり藁人形が出回ってしまっているので、今は呪われてる人探しで人手が取られてしまってます。件のローズアカウントも、警察がどの口座とつながってるか調べ中です」
「ローズアカウント、まだ見られる状態なんですか?」
「まだありますね。和泉さんがメッセージ送ったからおびえて削除するかと思ったんですけど、新規販売がなくなっただけです」
「なるほど」
俺は少し考えた。
「あのアカウント、ないのとあるのとどっちがいいですか?」
「ない方がいいです、また売られると被害が拡大するので」
「私から追加でメッセージ送って、揺さぶってもいいですかね?」
「やってみて頂けませんか?」
「わかりました」
よし、やってみるか。




