ひとまず呪いを祓いたい
さて、最後の取材が終わった。俺は取材した店の店長さんと店員さんにお礼を言い、千歳との待ち合わせに向かおうとしたところで……騒ぎが起こった。
「があ……っ」
振り返ると、先程の店長さんがぶっ倒れて、のたうち回っている。店員さんたちはびっくりして固まっている。え!? 何!? 救急車か!?
「だ、大丈夫ですか!?」
俺が店長さんのところに駆け寄り、様子を確かめようと店長さんに触れると、なぜか店長さんはいきなりおとなしくなった。
「……あ、あれ? 痛くない……?」
「どうしたんです? 痛かったんですか?」
店長さんは、息こそ荒いものの、困惑した顔で意識もはっきりしているようだ。
遠くにいた店員さん、店長の奥さんが「あんた大丈夫!?」とやってきて、俺が「とりあえず救急車呼びましょう」と店長さんから手を離したとき、また店長さんが苦しみだした。
「ぐ、ぐおおお……痛い、痛い!!」
えっ何!?
まさかと思って、俺がまた店長さんに触れると、店長さんは途端におとなしくなった。
「い、痛くない……」
何これ!? 俺が触ってると痛くないの!?
俺は、自分には、組紐やら宇迦之御魂神様やら閻魔様やらに強い防護がされていることに思い当たった。千歳が横浜駅で爆発しかけたとき、俺の手首の組紐で助けたことも。
店長さんが苦しんでるの……霊的な何かか!? 俺に触ると、俺の防護の力が伝わって痛くなくなってる!?
しかし、俺には店長さんに触れ続けることしかできない。何か悪い霊に祟られてるとしたら、千歳になんとかしてもらうしか……。
「すみません、これたぶん救急車じゃないです、対処できる者に連絡を……」
店長さんに触れつつそう言い、俺は片手でなんとかスマホを出し、千歳に連絡しようとした。
その時、『和泉!!』の大声が聞こえてきた。
「千歳!」
千歳がすごい形相でこっちに駆け寄ってきていた。
『大丈夫か!?』
「俺は平気、この人がなんか悪いことされてる!」
俺が店長さんを見ると、千歳は『わかった』とうなずいた。
『呪われてるな、その人』
千歳は口の中で何事かつぶやき、すると店長さんの体から黒く濃いモヤが立ち上ってきた。
店長さんと店員さん達が「何!?」「何だこれ!?」と騒ぐ中、千歳は服をめくってお腹に触れ、お腹の中に手が沈み、そこから豪奢な袋に包まれた守り刀を取り出した。
千歳はさっと袋を開け、刀を抜き出して、思い切り黒いモヤを切り飛ばした。
モヤは空気に溶けて消えていき、千歳は刀を納めて大きく息をついた。
『おっさん、あんたものすごい力で呪われてたぞ、下手したらショック死してたぞ』
店長さんは尻もちをついたまま、困惑して「の、呪い……?」とうめいた。
『心当たりがあるなら、相手に土下座して詫びろ』
店長さんの奥さんが眉尻を吊り上げた。
「あんたまだあの女と別れてなかったの!?」
「別れた! 別れたよ!」
店長さんはあわてて言い訳する。これ、別れたから呪われたんじゃない?
俺は千歳に聞いた。
「千歳、なんでここわかったの?」
『ものすごい呪力がさ、あの森のデカい公園から飛び出てさ、こっちに行ったから』
「えっ、そんな呪いとか出来る人がいるの?」
『やる奴がやればできるけど、何で公園でやったんだろう』
俺達は、とりあえず店長さんたちをなだめて、「詳しい人に連絡します」と金谷さんに電話した。
かくかくしかじかを話すと、金谷さんは「その地域担当の者が行くので、それまで、また呪われないように防護しといてあげてください」とのことだった。
俺は千歳に金谷さんの言ったことを伝え、そして千歳に聞いた。
「その、呪力っていうのが飛び出してきたところから第二撃が来る可能性ある?」
『ありうるかも。森の公園行こう』
「いや、この人の防護しろって」
『じゃあ連れてこう』
店長さんは混乱していた。
「の、呪われたんですか俺は?」
俺は店長さんに言った。
「おそらく。同じ方法でまた呪われたらいけませんから、我々は呪いが行われた場所に行きます。で、我々が離れたあとに呪われたらいけませんので、我々についてきていただけませんか?」
「は、はい……」
そういう訳で、足がガクガクしている店長さんを連れて、俺達は森の公園まで行くことになった。




