せっかくだから楽しみたい
現在新幹線の中。夕飯に駅弁を食べながら、千歳(二十歳の朝霧の忌み子のすがた)はウキウキしている。
『かっるいっざわっ♪かっるいっざわっ♪』
「仕事なんだからね、旅行じゃないの」
泊まるのもビジネスホテルだし。
『でも観光地行けるの嬉しい』
「まあ……多少はね」
行くところは取材で決まってるけど、滞在中の朝食と夕食は一緒にいいものを食べようね、できたら空き時間作って少し軽井沢を回ろうね、と千歳と約束していた。楽しみじゃないと言うと、嘘になる。
そんな訳で軽井沢駅に着き、駅近くのビジネスホテルにチェックインして、俺と千歳はそれぞれの部屋に入った。さっとシャワーして、明日の予定のチェックをもう一度したら寝て、明日に備えるか。
シャワーから上がって、仕事のチェックも終え、そろそろ歯磨いて寝ようと思った時に、部屋の扉からトントンとノックの音がした。開けると、千歳だった。
「どうしたの」
『なあ、やっぱり一緒に寝てもいいか?』
「えっ……」
今の千歳は二十歳の姿である。そして、とんでもなくきれいでかわいい女の子に見える。しかも、たぶん湯上がり。
え!? 一緒に寝るって!?
千歳は後ろ手に扉を閉め、動揺してる俺の前で、ボンと音を立てて黒い一反木綿の姿になった。
『ほら、いつもみたいに!』
「あっ、ああ、そう……そうだね、いつもみたいにね……」
何をがっかりしてるんだ、俺!!
まあそういう訳で、俺はいつもみたいに千歳に巻き付かれて寝た。特に何事もなく仕事が終えられればそれでよかったのだが、仕事が終わった直後に、俺たちはまたトラブルに巻き込まれることになる。