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だから穏当にやってほしい

 同窓会から数日。

 世はすべて事もなしとはならず、アメリカがイランにミサイルを撃ち込んだり、イランがアメリカ軍基地にミサイルを発射したりなどがあったが、今のところ俺達の実生活に影響はない。これからも影響してほしくないし、戦争拡大もしないでほしい。

 そんなことを考えながら、夜、ソファーに座ってニュースをチェックしていたら、週刊誌の記事が妙に注目されていた。タイトルは【神奈川県警警視壮絶DV!告発の真相とは!?】。

 居住地域の警官がDVやってたら嫌だなと思って、一応記事を読んでおこうとそのアドレスに飛んで、俺は息を呑んだ。

 記事で触れられている警視の名前が、【妻黒】だったのだ。

 稲口さんの名前は伏せられているものの、何処かからタレコミがあったとしか思えない詳細な内容。稲口さんは日常的に殴られ、骨折も珍しくなかったそうだ。

 高根さんが告発したのか? いや、でもそれだったら俺なんかに頼る必要なくないか? あるいは国師先生? でも、たった数日でこんな詳細な記事上がるか?

 情報源は匿名とある。LINEのやり取りも揃ってる。LINE……ネット上の情報……?

 俺は、嫌な予感がした。

 スマホでDiscordを開く。メッセージ画面を開く。そして、俺のファンを名乗る不審人物にメッセージを送る。


「何かした?」


 ややあって、返信があった。


 [先日の件、やはりあなたは穏当に済ませようとしていたね。ますますあなたのファンになってしまったよ]

「何したの本当に」

 [高根という人は稲口という人を通じて一生懸命証拠を集めていてね、それをGoogleドライブでまとめて管理していた。それを週刊誌に持ち込むことは思いつかなかったようだけどね]

「Googleドライブから情報抜いたの!?」


 そんなことまでできるの!?


 [私にとって、難しいことではない]

「もうちょっと穏当にやろう!? 高根さんに週刊誌に持ち込めって提案するだけでよかったじゃん!?」

 [なるほど、あなたならそういう風にやるのか]

「本当に変なことしないで、お願い」


 公権力が動かないなら告発しかない、それはわかるが、他人のGoogleドライブから情報ぶっこ抜く無法人間を放っておけるか?

 俺のファンを名乗る不審人物は、まったく反省していないようだった。


 [社会正義はなされたし、稲口という人も、もう被害を受けないだろう?]

「それはそうだけど、やり方を考えて欲しい。和束美枝さんと和束みやびのことでは協力してほしいけど、他ではもうこんなことしないでほしい。やるべきことがあったとしても、もう少し正当なやり方ができないか考えてほしい」


 少し、返答に時間があった。


 [あなたに喜んでもらえると思ったんだ]

「仮にも俺のファンを名乗るなら、俺が喜ぶことと喜ばないことをもう少し学んでほしいな」

 [すまなかった]


 それからしばらく返答がなく、これで終わりか? と思った時に、また返信があった。


 [また連絡してもいいだろうか?]


 うーん……。

 やったことは無法すぎるが、俺に喜んでほしくてやったということは、悪意ではないんだよな。でも放置しとくのも怖いし、和束母娘の件では多少無法でも協力してほしいし……俺は、この人と関係を保って、やっていいこととやってはいけないことを伝えていくべきではないか?

 考えた末、【人間的に突き放すわけではないよ】と伝えたくて、俺はこう返事した。


「普通の話なら、できるだけ付き合うよ」


 すぐ返事が来た。


 [ありがとう]


 そしてやりとりは終わったが、倫理観ふわふわな人とのやり取りは、はっきり言って怖い。

 隣でタブレットいじってた千歳が、俺を見て『どうした?』と首を傾げたので、俺は今あったことを伝えた。


「なんでも出来る人が倫理観ゆるふわなの、怖すぎるよ……」

『うん……確かに、週刊誌にタレ込むとしても、高根さんを手伝うだけでよかったよなあ』


 千歳は頷き、少し考えてから言った。


『なんかさあ、そいつ、なんでも出来る割に子供なのかもな』

「子供……」

『ワシもあんま大人じゃないし、お前が大人の対応教えてくれなかったら、もっと暴力っていうか、自分の力だけに訴えちゃってたと思う。そいつはネットですごくすごいみたいだけど、お前みたいに大人の対応ができてない気がする』

「あー、なるほどねえ……」


 俺は、これまで人にネットの使い方を教えることが多かった。これからは、別の意味でネットを教えなきゃいけない子が増えちゃったのか……。

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