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付き合わないけど通じたい

 高根さんが音頭を取って、ホテルでの同窓会が始まった。基本的に立食パーティーと言った感じで、当時のクラスメイトたちが仲良く歓談している。ていっても俺、高校の時自分から人間関係作ろうとしなかったから、友達と言える人がいないんだよな……。

 どうしようかなと考え、とりあえず食べるかとお皿を取ったところ、「和泉くん!?」と声をかけられた。

 振り向くと、ちょっと猿顔の男性が女性連れで立っていた。あ、15年たっても分かる、白川くんだ!

 高1の文化祭で、女子たちの意向で男女逆転メイド喫茶をやることになったが、俺以外の男子はなかなか女装メイドをやりたがらなかった。なので、俺はクラスのおしゃべり男子、白川くんに「メイクされる時、女子の顔が近くてすごくいいよ」と唆し、クラスの男子たちが下心で女装するように画策したのだが。白川くんは、俺の言葉を聞いて即、メイクを頼みに行った女子がいたのだが。


「えっ、白川くん……朝宮さん!?」


 白川くんが即メイクを頼みに行ったのが朝宮さんである、そして2人が並ぶ距離はえらく近い、まるで恋人か夫婦のように。

 白川くんはにこにこしながら言った。


「うわー来てくれてよかった、和泉くんにお礼言いたかったんだよ!」

「えっ、なんかしたっけ?」


 朝宮さんも笑いながら言った。


「和泉くんがさ、文化祭の時白川くんにメイク勧めたんでしょ? それで私のところに来たから、なんだかんだであの後付き合ってさ」

「えっそうなの!?」

「でね、去年結婚したの」

「そうなの!?」


 俺は驚き覚めやらなかったが、朝宮さんを改めて見て、お腹がゆったりめの服、もっとはっきり言うと、マタニティーの服を来てるように見えることに気づいた。


「あの、違ってたら申し訳ないんだけど……もしかして、おめでた?」

「うん、七カ月」

「うわー、マジかあ、おめでとう!」


 白川くんが俺に言った。


「和泉くんいなかったら、きっかけつかめなかったからさあ、同窓会出会えたらお礼言いたかったんだよ」

「えー、そうなの!?」


 俺は、ずっと自分から人と付き合うことをしなかった。でも、それでも誰かの縁を結ぶ助けにはなれたんだな。

 それからは白川くんの助けでクラスメイトの中になんとなく入り、俺は楽しく過ごせた。

 楽しいおしゃべりと、おいしい料理と、少しのアルコールで同窓会はあっという間に終わり、二次会に流れる人もいたが、俺はホテルのロビーで千歳と落ち合った。


『おう、楽しかったか?』

「うん、楽しかった。なんか俺、高校の時キューピッドになってたみたい」

『キューピッド?』


 白川くんと朝宮さんのことを話して、千歳に感心されていると、高根さんが俺達のところに来た。


「あの、今日は2人ともありがとう。これ少ないけど受け取ってください」


 高根さんは、そう言って、【謝礼】と書かれた封筒を2つ差し出してくるので、俺はびっくりした。


「い、いいよいいよ! 会費持ってもらっただけで十分だよ!」

「でも、同居人さんはなんの関わりもないのに巻き込んじゃったし」

「じゃあ俺はいいから、千歳にあげて?」

「じゃあ、千歳さん、全部受け取ってください」


 高根さんは千歳に封筒2つを差し出した。


『いいのか? 遠慮なくもらうぞ?』

「いいです、本当に助かったので」

『じゃ、もらっとく。ありがとう』


 千歳は素直に封筒を受け取り、そして言った。


『なあ、高根さん』

「はい」

『ワシ、和泉をいい人と結婚させたいんだけど、高根さん和泉と付き合ってたりしてくれないか?』


 俺はまたひっくり返りそうになった。


「千歳! そういうことを言わない!」

『だって高根さんお前の初恋の人だろ!』

「いっ、言わないでよそんなこと!」


 千歳があんまりなことを暴露するので、俺は声が裏返ってしまった。

 高根さんは目を丸くした。


「え!? えええ!? 私!?」


 俺はもうどうすればいいのかわからなくなって、ひたすら高根さんに謝った。


「その、ごめん! 今は下心ない! 当時の話だから! 本当に当時の話だから!」

「えっでも、当時は本当に好きだったの!?」

「う、うん……当時の話だけど……」


 ここまで来て誤魔化すことも出来ないので、肯定すると、高根さんは「え、それじゃあ」と首を傾げた。


「もしかして、和泉くんがいっちゃんのこと振ったの、私が好きだったから?」

「その、他にも理由あるけど、理由のひとつとしてはそう」


 当時、両親のせいで、自分が幸せになっていい人間だと思えなかった。稲口さんの告白を断った主な理由はそれなんだけど、サブの理由としては明確に、好きな人は高根さんだったから、というのがある。

 高根さんは呆然としていた。


「マジ……? え、どこがよかったの……?私、ただうるさかっただけでしょ……?」


 そんなことない、全然そんなことない。

 俺は高嶺さんに、正直なところを言おうと思った。


「その、高根さんって、稲口さんのフォローしながら空気盛り上げてクラスの雰囲気よくしてるところがあったよね、そういう、明るいだけじゃなくて気遣い上手なところが好きだった」


 高嶺さんは愕然とした。


「え、いっちゃんのフォローしてるの気づいてたんだ……」

「その、文化祭で女装しろって話に俺が一番に手をあげたのも、稲口さんがそうしたがってるのにうまく行かなくて、高根さんが困ってたからだよ」

「そ、そうだったんだ……」


 しかし、当時の話である。俺は高根さんに、下心で今回のことを引き受けたと思われたくなかった。今は高根さんと付き合う気もないということも伝えたかった。


「いや、でも、当時の話だよ、今俺他に好きな人がいるから、高根さんとどうこうとは一切考えてなくて」


 千歳の鋭いツッコミが入った。


『相手全然脈ナシじゃないかよ! 乗り換えろよ!』

「そんな切り替えられる問題じゃないの!」


 高根さんは俺と千歳を交互に見て、ため息混じりに「あー、そうなの……」と言ったあと、くしゃっと苦笑した。


「ごめん、私も好きな人いるんだ、脈ないけど。だから、和泉くん彼氏にするのは考えられないな」

「あ、そうなんだ」


 俺はホッとした。そうなんだよ、今さらどうこうしようとは思わないんだよ。ただ、協力したくてしたかっただけなんだよ。

 高根さんは目を伏せた。


「でも、和泉くんみたいな人を好きになれたら、幸せになれてたんだろうなって思う」


 千歳が猛然と勢いを盛り返した。


『幸せになろうよ! 和泉とくっついてくれよ!』


 俺は慌てて千歳を抑えた。


「そんなに簡単に気持ち切り替えられるもんじゃないから!」


 千歳を物理的に抑えつつ、俺は高嶺さんに聞いた。


「じゃ、高根さんはその人のことが好きで好きでしょうがないんだ?」

「うん、たぶん一生面倒見るんだと思う」


 高嶺さんの苦笑は、少し悲しげだった。

 千歳が高根さんに聞いた。


『ヒモか?』

「ヒモだったら気持ちは通じてるでしょう。ヒモにすらなってくれなそうなんです」


 なるほど……。

 俺は高根さんに聞いた。


「でも好きすぎて、他の人を好きになれない感じ?」

「わかってくれる?」


 高根さんは微笑んだ。


「わかる」


 俺も笑った。何かが通じ合ったような気がした。


「和泉くん、今日は本当にありがとうね」

「いや、今日役に立ったのは千歳だから」

「千歳さんも、本当にありがとうございます」


 高根さんは千歳に頭を下げた。


『うん、どういたしまして……なんで意気投合してるのにくっついてくれないんだよ……』


 千歳は不満げに口を尖らせた。俺は千歳をつついた。


「どうせなら、俺と俺の好きな人がくっつくように応援してよ」

『別に応援してないわけじゃないけどさあ』


 高根さんが俺の肩を叩いた。


「和泉くんは、うまくいくといいね」

「えっ、うん、ありがとう」

「私も二次会誘われてるから、じゃあね」

「うん、楽しんでね」


 そうして俺と高根さんは別れ、俺と千歳は帰路についた。

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