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この人だから引き受けたい

 千歳がさっきから口パクで『くっつけ!』と騒いでるんだけど、俺はそれどころではない。慌てて高根さんに聞いた。


「ねえ、話がきな臭くなってきたんだけどどういう事!?」

「あの、いっちゃん、4年くらいDV彼氏と別れてくれなくて困ってたの」

「別れてくれなくて……えっ、稲口さん本人が別れたがらなかったってこと?」

「そんなに殴る人と一緒にいていいわけないって言ってたんだけど、油断するとふらっと戻っちゃって、彼氏は警官だから通報しても警察が動かなくて……今回やっと住居を分けさせられたの」


 え、神奈川県警が評判悪いことは知ってたが、マジかよ……。

 しかし、それでも稲口さんが本気で逃げれば何とかなるのではないか?


「なんで戻っちゃうの? 稲口さん」

「なんか、「あの人は弱い人だから」「私が支えてあげなくちゃ」みたいな」

「それは……有無を言わさず物理的に離したほうがいい」


 共依存的な関係なんだろうか?

 高根さんは肩を落とした。


「やっとそれに成功したんだけど、いっちゃんの気持ち的にすぐ戻っちゃいそうなの」

「それで俺をぶつけて、俺に稲口さんの気持ちを行かせるってこと?」

「まあ、一言で言えばそう」

「う、うーん……」


 俺は困ってしまった。俺はもう千歳がいるからな……。


「あの、俺、会うだけならいいけど、俺は確かに彼女いないし独身だけど、好きな人いるから稲口さんとどうこうはできないよ」


 千歳が身振り手振りでブーイングをめちゃくちゃしてくるが、俺はそれどころではない。

 高根さんは俺を拝んだ。


「会うだけでいいから! いっちゃんが付き合ってって言ったらそう言って振ればいいから!」

「それはそれで稲口さんに酷な気がするけど……」

「とにかく少しでも元彼のところに行くのを防ぎたいの!」

「……会うだけだよ?」


 高根さんの顔がパッと明るくなった。


「ありがとう! じゃあ同窓会来てね!」

「あのさ、稲口さんと俺を会わせるための同窓会なら、俺、いっそ同窓会前に稲口さんと会って話す時間取ろうか? 高根さんが仲介すればそんなに不自然じゃないだろ?」

「えっ、いいの!? ぜひそうして!」

「あと、俺別に高収入じゃないからその辺の魅力は期待しないでね」


 俺の収入は、同年代男性の中央値以上ではあるが、平均値以下である。


「えっ今アカデミアのお仕事?」

「いや、大学院は行かずに就職したけど、そこブラックで退職して、何年かフリーランスして、その後今の会社に拾ってもらったって感じで……ホワイトだけど小さい会社だから」

「へえ、大変だったんだ……」

「でも顔は今の2割増くらいにできるから、そうして行くよ」

「え、どういう事?」

「仕事でメンズメイク教わったことあってさ、俺メンズメイクすると2割増くらいの顔になるんだ」

「へえ……ぜひそうして!」


 高根さんは嬉しそうで、俺は少し面映ゆくなって「うん」とうなずいた。

 それから、高根さんは何かを思い出したように言った。


「あっあと言い忘れてた、いっちゃんのDV元彼って妻黒なのね」

「は!?」


 妻黒、俺が稲口さんを振ったから俺をぶん殴った柔道部男子の名前である。

 高根さんは言葉を続けた。


「でも妻黒は同窓会呼んでないから安心して!」

「いやあんまり安心できないけど!?」


 高校の時のメンバー、妻黒くん以外全員呼んだなら、どっかのルートから妻黒くんが「自分は呼ばれてない」に気付き「元カノは来るかも」に思いが至っても全然おかしくないんだけど!?

 俺は考え、そして言った。


「……あの、参加はさせないけど、稲口さんと会う時と同窓会会場の近くにマッチョを1人置いといてもいい?」

「マッチョ? どういうこと?」

「まあ、非常に怪力で、柔道経験がある男でも止められる人を置いとくということです」


 つまり千歳ヤーさんのすがたである。


「そんな人に知り合いがいるの?」

「うん、まあ……その人に、俺たちをそれとなく見ててもらう」


 千歳も俺の意図に気づいたらしくて、自身を指さして、首を傾げて俺に聞いてきている。

 俺は千歳に頷き、そして、高根さんに言った。


「そのマッチョに見張ってもらってていいなら、稲口さんに同窓会前に会うよ」

「うん、わかった。ボディーガードいたほうが安心だもんね」


 その後、同窓会前にどこで稲口さんと会って話すか相談し、15時くらいにみなとみらい駅、すなわち同窓会会場最寄り駅の近くの喫茶店で連れ合おうと決めて通話は終わった。

 千歳にはこう言われた。


『お前を1人で出歩かせて、探してる魂に襲われたら嫌だから、ボディーガードは元からするつもりだったけどさ』

「そっか、その問題もあったか」


 外に出る時はだいたい千歳と一緒だったから、その辺の危惧が頭から抜けていた。


『でも、妻黒って誰だ?』

「高校の時稲口さんを好きで、俺が稲口さんを振ったからキレて俺をぶん殴った柔道部男子」

『あっ、そいつか!』


 千歳は納得したようだった。


『そんな奴だったら絶対同窓会来るぞ、お前に手を出したらワシぶっ飛ばすし、稲口さんって人を殴ろうとしても止める』


 千歳が人をぶっ飛ばしたら、下手すると爆散するだろ!


「事を荒立てたくないから、妻黒くんが殴ろうとしたら羽交い締めにするくらいにして」

『じゃあ取り押さえとく』

「そうして」


 とりあえず、千歳がいればなんとかなるかな。しかし、波乱の同窓会だ……高根さんの頼みじゃなかったら、断ってたと思う。

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