番外編 金谷千歳と不老不死
和束ハルに頼んでた、ワシ用の霊力増強術式ができたって。あかりさんが持ってこようかって言ってたけど、ワシが和束ハルんちに行くほうが早いから、和束ハルんちにもらいに行った。
和束ハルは普通に出迎えて、お茶出してくれた。高千穗先生は、今日仕事でいないんだって。
「ほれ。だいぶかかってしもたけど」
和束ハルは巻物をワシに差し出した。
『ありがとう』
巻物を開いて目を通す。ワシじゃところどころしかわからないけど、変なものじゃなさそうだ。
和束ハルはため息をついた。
「峰家と上島家のチェックが厳しくなかったら、もっと早く済んだんやけどな」
『そりゃ、チェックくらいしたくなるだろ』
こいつ、日本ひいては世界中から霊力吸い取って全部ぶち壊そうとしたんだから。
和束ハルは巻物を指さして言った。
「それ使えば、霊力3倍くらいになるからな、探してる魂が霊力増強されてても余裕やけど、使わんで済むなら使わんどき」
『なんで?』
「反動がデカすぎるからや。効果が切れたあと、3日はろくに動けんで」
『ええー……』
3日も寝込むのか? それは嫌だな……。
「ろくに動けんときにまた襲われたら嫌やろ? とっときにしとき」
『そっかあ……』
そうか、動けない時を狙われることもあるのか。本当に奥の手にしとこう。
「探してる魂、話を聞くに、多少霊力増強されててもあんたなら増強なしで捕まえられるで。この術式使うのは、複数で来られたときだけにしとき」
『うん』
頷いてから、ワシは思いついた。
『なあ、複合体でこられたときもこれ使った方がいいよな?』
「せやな。そういう時こそ使うべきやけど……」
和束ハルは少し考えた。
「複合体の核になる子、多分ある程度育てときたいんやろ? うちの母親。もし生霊で出てきたなら、核は逃して、他の霊はちぎって別個にしてやったほうがええで。生霊は、下手に捕らえてまうと体のほうが危ないことがあるからな」
『そっかあ』
生きたまま助けてあげたいもんな。和泉もすごく心配してるし。
和束ハルは首を傾げた。
「しかし、ある程度育てる、もどれくらいやろな」
『うーん、できるだけ長く育ててほしいけど』
いつ助けてやれるかわからないから、猶予は長いほうがありがたいんだよな。
「まあ生きたまま助けられればそれが一番やけど、育って知恵が付けば反抗することもあるやろ? 美枝には、こだわり守ってやる代わりに言うこと聞かせる、ができたけど、アタリの子はどうやろ」
『そっか……』
イヤイヤ期も反抗期もあるもんな……。
ワシは、思ったほど猶予がないかも、って思わされて、元気がなくなっちゃった。
『チビのうちに助けてやれるかなあ』
「それはあんたと和泉豊がやることや。術式くらい書いてやるけど、他は知らんで」
『うん……』
ワシがあんまりしょんぼりしてたらしくて、和束ハルは少し慰めるように言った。
「術式は書いてやる言うたやろ。てかうちはそれしかできんのやからな、どっかの誰かさんがうちの集めた霊力切り離したから」
『まあそうだけどさ』
「うちかて、高千穂さんを不老不死にするための術式と霊力集めに集中したいんやで? それを協力してやるんやからありがたく思い」
『術式は、あんたならできるだろうけど、霊力はどうするんだ?』
「まーったく当てがないわ」
和束ハルは天を仰いだ。
「あんた、分けてくれたりせえへん?」
笑いながら、冗談の口調だったけど、ワシはちょっと真面目に考えた。
高千穗先生がいなくなったら、こいつまた暴れるんじゃないかなあ。それだったら、高千穗先生に不老不死になってもらったほうがいいのかも。
『うーん……絶対に不老不死の術式だけに使うって言うんなら、魂探しが終わったら考えなくもないけど……』
和束ハルは目を見開いた。
「えっほんま!?」
『魂探しが終わって、あんたが不老不死の術式にしか使わないって証明したらだぞ』
「それでええ! 証明方法は何とか考えるわ」
和束ハルは、驚きながらも、ものすごく喜んでるみたいだった。
帰ってきて、和泉にあったことを話したら「そんな事軽々しく約束しないの!」って怒られちゃった。
『でも、高千穂先生の不老不死にしか使わないって証明できたらって言ったから! 高千穗先生がいなくなったらまたあいつ暴れそうだし!』
「それはまあ、暴れそうだけど……確かに、本当に不老不死に使うだけなら危険はないけど……」
和泉は考え込み、そして言った。
「てか、高千穂先生は不老不死になるのは了承してるの?」
『「ハルちゃんがそうしたいならいいよ」って言ってたって』
「ノリが軽い……いや、愛が深いのかな」
『ラブラブなんだなあ、あの2人』
ラブラブな2人で、一緒に長い時を過ごす、ロマンチックな話だなあ。
ていうか、変な騒ぎなんて起こさないで最初からそうすりゃよかったのに、あいつ。




