活用できればしてみたい
閻魔大王様の頼み事も和束母娘のこともあるが、普通に仕事もあるのだ、俺は。
Webライティングの世界では、主に取引先が生成AIを敬遠するので、弊社グリーンライトは人力でやっていた。しかしトレンドに乗り遅れるのもまずいし、活用できるなら活用法を探ろう、ということで少し前から各自でAIの使い方を探っている。今日は複数人で生成AI活用結果報告会だ。
久慈さんがぼやいた。
「チャッピーは課金した上で設定しないとURL先読んでくれないし、課金して設定しても要約からこっちが訴求したいポイントが漏れてることがあるんですよね」
ChatGPTは、一部でチャッピーの愛称が浸透しつつある。
萌木さんは各生成AIを使った感想を述べた。
「Claudeは日本語は自然だけど、性能はやっぱチャッピーとかGemini辺りかなあ」
久慈さんが俺に話を振る。
「和泉さん、論文はどんな感じ?」
「SciSpaceとConsensusで迷ってますねえ、論文検索の正確度で言えばConsensusなんですが、SciSpaceは要約が強くて」
俺は英語論文が多少読めるので、論文からAIでどれくらい情報収集できるかを確かめる係だった。Consensusは査読付き論文のみから検索できるのだが、SciSpaceは論文の要約ができるのが強い。
久慈さんは、今度は嬉野さんに話を振った。
「嬉野さんは、チャッピー生成品の添削してどうでした?」
「よくも悪くもそれなりですね。課金版でも同じです。ペルソナと検索ワードを踏まえてやらせてもみたんですが、なんというか無難なもの、平均的なものしか書かなくて……構成案の時点でいまいちな感じなので、AI生成品をベースにするとしても人間が相当肉付けしないとなと思います」
構成案とは、Webコンテンツの見出し一覧のことである。検索ワード・読者層・検索サジェスト・共起語を踏まえて、Google検索のトップに来るよう作らなければならず、SEO対策の知識がないと有用なものが作れない。最近は、Googleのトップに出るスニペットやAI要約のソースになるかも重要なので、それも踏まえて作る必要がある。
萌木さんが嬉野さんに聞いた。
「逆に、構成案だけ人間でやってAIに本文書かせたらどんな感じだと思う?」
「悪くありませんけど、取引先ごとのトンマナを教え込むのがまず大変そうです。本文の内容はやっぱりそれなりになるかなと……。叩き台くらいにはなるかもしれませんけど、ある程度専門的な内容になるとハルシネーションが怖いです」
WEBライティングにおけるトンマナとは、文体・文字数・NGワード・語尾などの統一を指す。納品先によって細かく異なるので、生成AIに教え込むプロンプトを書くのは確かに手間だ。
久慈さんが嬉野さんに聞いた。
「やっぱり存在しない出典けっこう出してきます?」
「します、改善されてきてはいますが」
「うーん、生成AI無関与はやっぱ需要あるからな……最新論文の内容を盛り込みます、はSciSpaceかConsensusでできるとしても……」
俺は口を挟んだ。
「そもそもの話として、生成AIはネットに上がったことしか知りませんからね。本にしか書いてないこととか、専門家の目利きとかは期待できません」
久慈さんは眉根を寄せた。
「んー、やっぱり対人とか取材が強くなっていくのか……北明は全員在宅でやらせたいみたいだけど、とりあえずそれは伝えとくか」
北明社長・久慈さん・萌木さんは大学の同期であり、グリーンライト立ち上げメンバーである。なので割と呼び捨てがある。
俺はさらに言葉を続けた。
「専門書だと電子書籍ないこともあるので、社でKindle共用するのも十分じゃない場合があります。あと、Kindleは外資で、トランプの言う事聞きますから、変な検閲が入る可能性もあるんですよね」
必要な書籍は電子でKindleで買い、社内で共用してるんだけど、多様性アンチなトランプの圧力を受けたAmazonは薔薇族の電子書籍を売らなくなった。トランプ禍では、何が多様性と見なされて絶版にされるかわからないのだ。
萌木さんが俺に聞いた。
「国産電書でおすすめとかある?」
「うーん、友人にBOOK☆Walkerを勧められたことはありますが……」
狭山さんがそこ推しなのである。
「あそこ漫画ばっかりじゃない?」
「プラットフォームは確かに漫画とラノベ推しなんですけど、検索かければ普通にKindleと同程度くらいの書籍出てくるそうです。その、勧めてくれた友人は博士で小説家なんですが、電子書籍になってる書籍であれば資料は揃うと言ってました」
久慈さんが俺に言った。
「楽天koboと紀伊国屋とも比較してみてくれません? 書籍のそろい具合と、あと本棚の整理のやりやすさも加味して見てください」
「はい」
Kindleは、本棚の整理の仕方が壊滅的なんだよな。そこを改善できて書籍の幅も十分なら、国産電書サービスは大いにあり。
大体、そんな感じで会議は終わった。
千歳は、また星野さんからもらってきた梅のヘタを取りながら俺たちの会議を聞いていたのだが、後で『言ってることの半分もわかんなかった……』とポカンとしていた。
「ははは、この業界の専門用語もあるしよくわかんないよね」
『なんかすごいことやってるのはわかった』
「まあ、俺は仕事をがんばっているということです」
『うん、えらいぞ』
「えらいから後で肩もんで」
『おう』
大したことではないのだが、感心してほめてくれる人がいるのは嬉しい。こんな風に、仕事と、千歳との生活だけに集中できるなら、俺はそれが一番いいんだけど。




