こんな時だから整いたい
一人の赤ちゃんの命がかかってる事態。それを自覚してから、俺はずっと浮かない顔をしてたらしくて、夕飯中千歳が言った。
『何年か猶予はあるんだろ、そんな顔するなよ』
「うん……」
『なんか気晴らしでもしよう、やりたいこととかないか?』
「やりたいことねえ……」
『なんでもいいからさ』
なんでもねえ。やりたいこと……やったことがないこと……。
「うーん、大したことじゃないんだけど、一度【整う】をやってみたいかな、サウナの」
『なんだそれ?』
俺は【整う】を説明した。サウナ後水風呂、それから外気浴のサイクルをすると、【整う】という状態になるらしいこと。ここ何年か、サウナでの整いが割と流行りであること。
千歳は考え込んだ。
『家の風呂じゃ難しそうだな』
「だから、サウナある銭湯とかじゃないと無理なんだけど、そんな銭湯なんて近場にないんだよね」
『ふーん、でもやりたいことではあるんだよな』
「まあ……」
俺が頷くと、千歳はスマホを取り出した。
『ちょっと、飯中に悪い』
千歳はささっとスマホをいじり、『おっ』と言った。
『サウナ付き銭湯あるぞ、近くはないけどバスで行ける』
「えっマジ!?」
『行かないか?』
「行く」
『いつ行く?』
「明日の夜にでも行きたい、華金だし」
『じゃ、行こう!ワシもお前とサウナやってみたい』
「え!?」
その格好で!? ごく一部以外は超絶美少女の姿で!?
「そ、その格好で男湯はちょっと……」
『バカ、ちゃんと男の姿で入るよ。この体じゃどっちの湯にも入れないだろ』
女湯は? あ、いや、うん、千歳的にはダメなんだろう、ちょっとブラブラするものがついてるし……。
「じゃ、一緒にサウナ行こう」
『うん!』
千歳は笑い、俺は千歳が俺を気遣ってくれることが嬉しかった。




