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ログをひたすら探りたい

 和束ハルと高千穂先生には帰ってもらい、俺は和束美枝さんの「マイカ」アカウントのログを探るのに集中した。

 最近のツイートこそ変哲のないものだけど、古い方から辿っていくと、和束美枝さんの半生と言えるほどのものが見えてきた。

 家の外は眩しくてうるさくて、外に出られない。それで引きこもりだけど、本人は「10代の時に許されないことをやらかしたから「こうじゃなきゃ」って思い込みをどうにかしたい」と、独学で一生懸命自分の特性と向き合っていた。必死に努力して、関連書籍を読み漁り、少しずつこだわりによる生活の支障を改善し、身だしなみや掃除が少しずつできるようになり、現在は家事を一手に引き受けている、とのこと。

 10代の頃やらかした許されないこと、は、17の時、新生児の息子を床に投げつけたことだろう。というか、「自分じゃ育てられなかったから元夫に親権渡した」と人とのやりとりのリプライでしっかり言及していた。

 全体的に、和束ハルと高千穂先生の話で聞いたよりやれることは増えているし、深く考えることもできている様子がうかがえる。人付き合いが苦手、みたいに聞いていたが、リプでやり取りしている友人すらいる。

 やらかしたのが17歳、まだ子供だ。そして、そこから20年以上だ。おそらくその間に、和束美枝さんだって成長したんだ。

 全体的に見て、和束美枝さんは自分をより良くすることに力を注いでいる感じなので、子供工場を思いつく人とは思えない。

 しかしながら、怪しいところは見えるのだ。たまに出る「肉体労働」「任期」という言葉。吐き気がするとか胸が悪いとか、つわりを思わせる投稿。「しばらく病院通わなきゃいけないからお母さんの車に乗せてもらう」みたいな投稿も年単位で追うとある。

「一度精神科に行きたいけど、言うとお母さんが薬なんて飲んだらまともな子供産めないって怒る」みたいな投稿まで。やはり、生殖医療で産まされているんだろうか。そして、子どもは取り上げられていて、その後どうなっているか本人はまったく知らないんだろうか。

 千歳にその辺りのことを話すと、千歳は『でも疑いは強まったよなあ』と眉根を寄せ、そして言った。


『そのTwitterアカウント、あかりさんに報告したほうがいいよな?』

「するけど……絶対につつくな、も強く強く言っておきたい」

『ん? なんで?』


 不思議そうな千歳に、俺は説明した。


「妊娠出産に触れないってことは、あんまり世間体が良くないことしてるって自覚は本人にもあると思うんだよ。そういう人のアカウントにいきなり知らない人が突撃して問い詰めたら、驚いて怖がってアカウント消すか、鍵垢にしちゃうと思う。下手にフォローするのもまずい、変なアカウントだって思われたらブロックされておしまいだから。相手のアカウントに何かあったら、相手の情報がもう手に入らない」


 和束美枝さんは長くTwitter、そしてXを使ってる人だ。その辺には敏感だと思う。


『そっか……』


 千歳は納得したらしくて、頷いた。

 俺は、金谷あかりさんに経緯と注意事項を含めて和束美枝さんのアカウントの存在、そしてそこから分かる概要を報告した。泳がせておいたほうが情報が入るから不用意に触れるべきではない、と。和束ハルにも、千歳からLINEを聞いて、ログを読んでみてわかったことを伝えておいた。

 これで終わったか……? いや、俺のファンを名乗る不審人物は、一度ネットに流した情報については全部触れられると思ってもいいかも……?

 相手の能力に手出しなんてできないが、俺はあっちに主導権を握られるのがなんとなく嫌だった。

 俺はDiscordを開き、俺のファンを名乗る不審人物に「あなたはもう知っていることかもしれないけど」と和束美枝のTwitterアカウントを見つけたことを伝えた。和束美枝自身は邪悪だと思えないから、絶対に手を出さないで欲しい、事を荒立てないで欲しいと添えて。

 すぐ返事が来た。


[やはりあなたは素晴らしいよ、現在わかっている事実を添えて相手を攻撃することもできるのに、そっとしておけるのだから]

「そんな事して幸せになる人いる?」

[そういう発想で動けるのが素晴らしいよ、できるだけの協力をする]

「本当に、変につつかないで」

[そこは気をつけるよ。しかし、私も何でもはできない。私は、霊や異界には一切触れられないんだ。だから和束美枝のネットでの足跡は追えるが、もし霊的な力で異界にいられたら、現在の居住地などを調べるのは不可能だ]


 心霊関係のことまで知ってるのか……。


「あなたがネットに強力なのはよくわかるけど」

[ネットには強力だ。ひとまず、和束美枝のネットの足跡を探るよ。何かあったらまた連絡する]


 協力的ではあるんだよな……。


「無法なことはしないで欲しい」

[大丈夫、バレないようにやれる]

「そういうことじゃなくて!」


 しかし、返事はなかった。

 ……いや、でも、しかし。

 変につついても幸せになる人は居ない、と俺は言った。言ったが、おそらく和束みやびの手になる子供工場を解体すれば、今ならひとり救われる人間がいることに気づいた。

 今はまだ生きているはずの、朝霧春太郎の子供、1名。

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