君の幸せ眺めたい
閻魔大王様に頼まれた魂10体探し、それに付随する和束母娘の重い事情、俺のファンを名乗る不審人物の出現、あと普通にたくさんある仕事!
最近いろいろありすぎて、さすがに気疲れしてる。なんか癒されることが欲しい。
でも、俺にとって癒しってなんだろう?
そんなことを考えつつ、千歳が作ってくれたお昼を食べる。目玉焼きとサラダとスープとチーズトースト。千歳はチーズトーストにさらに蜂蜜をかけて、幸せそうにもぐもぐしている。
……なんか、千歳が何かおいしいものを食べてニコニコしてるのを眺めてたら、俺はそれが幸せかも……。
俺はそんなに食べるほうじゃないけど、千歳をバイキングとか食べ放題とかに連れてったら、そんな風景が眺められるかな?
お昼のお皿を洗い終わったあと、いい感じのバイキングできるところを検索した。千歳の好きなものって言ったら、やっぱり甘いものかな、と思いついて「スイーツ バイキング」で検索したら、横浜駅近くにスイーツパラダイスがあるのを知った。
スイーツパラダイスのメニューを調べてみたら、スイーツの充実はもとより、パスタやスープなどのフードメニューもそこそこある。もうここにしちゃおう! ここの一番いいコースにしちゃおう!
夕飯もお風呂も済ませた、夜のまったりタイム。俺はいい頃合いかなと思って、千歳を誘った。
「ねえ、今度横浜のスイーツバイキング行かない? おごるよ」
『え、いきなりどうしたんだ?』
千歳は目を丸くした。
「最近いろいろあって疲れたから、パーッとやりたくて」
『それはまあ……そうだな』
納得してくれたらしくて、千歳は頷いた。
『でもバイキングなんて、お前元とれないだろ?』
「その分、千歳が食べればいいじゃない。食べれるだろ?」
俺が0.8人前食べるとしても、千歳は3人前は普通に食べれる。
『まあ……食べれるな……』
千歳も似たような計算をしたらしく、なんとなく納得してくれた。
「ほら、メニューこんな感じ。しょっぱいメニューもそこそこあるし」
俺はスマホを出し、スイーツパラダイスのメニューを千歳に見せた。ズラッと並ぶスイーツメニューに、千歳は驚いたようだ。
『う、うわすご!?』
「今はいちごスイーツ多くて、ハーゲンダッツ食べ放題のコースもあるんだよ。一番いいコースだと、メロンとマンゴーのスイーツも食べ放題」
『行く!』
千歳の目のきらめきがまぶしい。
「よし。お互い空いてる日に予約入れよう、一番いいコースで」
『うーん……平日でもいいか?』
千歳は首を傾げた。
「大丈夫、夜9時までやってる店だから」
『じゃあ、木曜か金曜の夕飯に行きたい』
「俺は金曜がいいかな、金曜に行こうか」
『よっしゃ!』
千歳はガッツポーズをした。
『うれしー! いろんなケーキいっぱい食べれる!』
「よかった、喜んでもらえて」
『お前もケーキいっぱい食べるのか?』
「いっぱいは食べれないかな、スパゲッティと小さめのスイーツひとつくらいで大人しくしとく」
クリームやバターたっぷりのお菓子は、俺はまたお腹壊す可能性あるしな。これがカレーや唐揚げや麻婆豆腐だったら俺は強行するけど、お菓子にはそこまで強行する気出ない。
千歳は『えっ』とあっけにとられた。
『じゃあ、ワシだけが嬉しいやつじゃないか!? いいのかお前!?』
「い、いや、普通に俺も楽しいからいいんだよ」
『えっ、何が!?』
「いや……その……」
い、言うの恥ずかしいぞ! 千歳が幸せそうに食べてるのを眺めながらお茶でも飲めたら俺はそれで幸せだなんて!
「そ、その……千歳に好きなものたくさん食べてもらいたかっただけで……俺は普通に食事できればそれで十分で……」
もごもご言うと、『そ、そんな……』と千歳は信じられないものを見る目で俺を見た。
『わざわざ横浜のスイーツバイキングまで行って……スパゲッティだけで……?』
千歳は黙り込み、そして考え、『今度お返しにお前の好きなもの奢ってやるよ』と言った。
「い、いやそんな、気を使わなくていいよ」
『遠慮するな、なんでもいいぞ』
「そ、その……だから……」
俺の私利私欲だけだよ! お返しなんていらないんだよー!
千歳に気を使わせるのも悪かったので、俺は恥じらいを乗り越えて言うことにした。
「お、俺は……千歳が好きなものをおいしそうに食べてるのを見てたら元気出るなって思ったから、それでスイーツバイキング一緒に行きたいなって思っただけなんで、お返しとか、いいから……」
『ワシが食ってると? いいのか?』
千歳はぽかんとした。
「俺は割とそれで元気出る」
『ワシが食ってるだけで?』
「幸せに食べててくれれば」
『幸せに?』
「そ、その、だから、千歳に好きなもの好きなだけ食べてほしいし、俺はそれを眺めてたいってだけなんだよ! 本当にお返しとかいいから!」
『???』
千歳は理解できてないようだったが、『えっと、お前の前で好きなもの食べてれば元気出るのか?』と言った。
「それで十分です」
『なんか元気なかったのか?』
千歳は心配そうに俺を見た。
「ほら、最近いろいろあって、流石に疲れたから……」
『まあ……そうだよな……』
千歳は頷き、『じゃあありがたく、たくさん食うか!』と力強く言った。
「うん、好きなもの好きに食べて」
『うん! ありがとう!』
千歳はもうすでにニコニコで、俺はそれだけで少し元気が出たのだった。




