まずは抱っこをしたげたい
日曜の昼下がり。千歳が、なぜか久々に幼児の姿になり、座椅子に座ってる俺の膝に乗ってきた。
「久々だね、その格好」
『うん』
千歳は俺を座椅子にしたいのかと思っていたが、千歳は俺に向き直って両手を広げてきた。
『抱っこ』
「抱っこ!?」
驚いたが、断る理由もない。俺は両手を伸ばして、千歳を抱っこするように抱きしめた。
「どうしたの、なんかさみしくなった?」
『さみしいっていうんじゃないけど』
千歳は俺の胸に頭を押し付けた。
『お前はさ、ワシのこと抱っこしてくれるよな』
「まあ、してるけど」
『……あの子たちは、抱っこしてもらったのかな?』
あの子たち。閻魔様に頼まれて探してる、魂10体のことだ、とすぐに分かった。
赤ちゃん。抱っこ。あまりにも普通の組み合わせだ。
しかし、相手は普通ではない。ブンさんの土地で出会ったあの子、他の子もおそらく似たような境遇だろうあの子たち、果たしてまともに保護者の胸に抱かれたことがあるのか?
言葉が出ず、身を固くしてしまった俺に、千歳はつぶやくように言った。
『ワシのことはさ、お前が抱っこしてくれるけどさ、あの子たちは誰が抱っこしてくれるんだろう?』
あまりにも重い問いに、俺はとっさに言葉を返せなかった。
「……その、操作の術式だっけ、それをはがさないとどうにもならないと思う」
『うん』
返事にならない返事をすると、千歳は、俺にさらにぎゅっと抱きついてきた。
『ワシのことはさ、お前が抱っこしてくれるからさ、ワシはさ、あの子たちを抱っこしてやりたいって、そう思ったんだ』
「…………。そっか……」
俺も、千歳を抱きしめた。
「俺も、あの子たちを抱っこするよ」
『うん、それがいいな』
千歳は、顔を上げて笑った。
俺が千歳に注いだ気持ちがあるから、千歳は他の人に気持ちを注ごうって思えるようになったのか。そうか……。
そうだな、あの子たちが赤ちゃんなら、まずは抱っこしてあげないと、だよな。




