お土産たくさん選びたい
怨霊(男子大学生のすがた)(命名:千歳)は山盛りの天ぷらとせいろそばを次々とたいらげていた。
『めちゃくちゃうまい、来てよかった!』
「そりゃ良かった、藤さんはおいしいって?」
『すごくうまいって、本わさび、別注文でわざわざつけてよかったって』
「そりゃ良かった」
『お前、天ぷら頼まなくてよかったのか? 揚げ物、たまにならいいんじゃないか?』
俺も揚げ物が嫌いなわけじゃない。自分の腸のことを考えたとしても、たまに食べてもいいかなとは思うが、とても千歳ほど健啖にはなれない。
「山菜そばだけでお腹いっぱいになっちゃうからさ、俺」
『そうか、お前そんなに量食べないもんな』
千歳は納得したようにうなずいた。
安いメニューを適当に選んで山菜そばを注文したが、出汁が効いていて、そばも香りが良く、おいしい。値段相当にいい店ではある。知らない土地でおいしい店を探すのはけっこう大変だし、来たことがある人のナビがあるのは助かるなと思った。
俺は食べ終わり、ついで千歳も食べ終わったので会計を済ませ、店の外に出た。
「じゃあ、宿に入る前に、星野さんへのお土産探そう。ここに来る途中に土産物屋あったよね、まずそこ行こう」
『いいのあるかなあ』
千歳は、ふと耳を澄ますような顔をし、そして言った。
『土産物屋の斜め向かいの干物屋も見るといいって。干物も名物だし、うまいのがたくさんあるって』
「じゃあそこも行こう」
やはり、来たことがある人のナビは助かる。いや、そもそもこの人のために来たんだが、こっちが楽しんじゃいけないというわけでもないし。
土産物屋は、温泉まんじゅうやその類似品、旅行先でよく売られているふりかけなどに埋め尽くされていたが、干物やわさび漬けなどもあった。
『まんじゅうたくさんあるな、名物なのか?』
「まあ温泉あるもんね」
『あ、今おっさんがな、甘いの買うなら、宿の方向に歩いて宿少し過ぎたところにあるくるみキャラメルの最中が評判いいって』
「後でそこも行こうか、時間はあるから」
『……あの、今日、結構歩いてるけど、お前大丈夫か?』
千歳が心配そうな顔をする。そういえば、電車移動ではあるが、ちまちま歩く機会があるので、距離的にはかなり歩いているかもしれない。
「割と大丈夫だね、まあ毎朝少しだけど散歩してるし、やっと効果出てきたんだと思うよ」
『そうか、宿につくまで平気か?』
「大丈夫、途中でへたれたりしないから」
『じゃあ、最中はそこに買いに行こう』
「ここで何か買っておきたいのある?」
『わさび漬け欲しい、星野さんのもだけど、家用のも』
俺は少し考えた。
「うーん、星野さんち夫婦二人だし、干物と最中は買うとなると、買う量にもよるけど、食べ切れなくなるかもよ」
『そっか……どうするかな』
千歳は少し考え込んだが、また何かに耳を済ませるような顔になった。
『じゃあ緑茶はどうかって。静岡に近いからいいお茶が買えるって。ぐり茶っていうのがいいって』
「それがいいんじゃない?」
『お茶の店まで少し遠いから、タクシー使ってもいいんじゃないかって。星野さんのお土産だし、タクシー代もワシが出す』
「ちゃんとついてくよ。わさび漬け買って、干物屋も行って、お茶買って、それから最中買いに行く?」
『そうする!』
時間はたくさんあったし、千歳が最初から『星野さんのお土産の金はワシが出す』と宣言していたので、俺は心穏やかに買い物について行った。一応、金谷さんに俺たちのこれからの動きをLINEしておいたので、遠目に金谷さんと狭山さんが見えることがあった。いや、俺たちだけ普通に旅行しててすみません、でも星野さんには普段から世話になってるし、そのうちお礼したいと思ってたしさ。
土産物ツアーの最後に和菓子屋にたどり着き、くるみの最中と、ついでに宿で千歳が食べる用に、評判だというきびもちも買って、そろそろいい時間なので宿に行こうということになった。
『持ち込みしていい宿だから、すぐ近くのコンビニで生ビールと日本酒、あとつまみ買いたいっておっさんが言ってる』
「俺の身分証明書がいるね、まあマイナンバーカード持ってきてるから大丈夫だけど」
というわけでコンビニに入り、酒コーナーの前に立った。かごを持ってくるのはいいが、ロング缶をいくつもかごに放り込んでいる千歳を見て、俺は戦慄した。高いんだぞ。
「千歳、いくら酔わないって言ってもさ」
『だって、おっさんが二日酔いの心配ないならたくさん飲みたいって』
「……ほどほどにしときなよ……」
高そうな日本酒の瓶とビーノひと袋もかごに放り込み、ついでにノンアルコールビールもひと缶放り込み(俺だけ風呂上がりのビールを我慢するのもバカらしいので)、会計の額にげんなりしてから、俺たちは宿に入った。
こいつら祟り祟られの関係なんだけど、なんで普通に旅行してるんだろう(今さら)