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番外編 金谷千歳の相方

 ワシが目覚めたら、和泉が化け狸の女の子たちに声かけてくれて、遅いお昼になった。若竹煮、フキの煮物、卵焼き、ぬか漬けと山盛りのご飯。

 ふと疑問に思って、ワシは和泉に聞いた。


『もしかして、ワシが起きるまで昼メシ待ってたのか?』

「うん、できれば一緒に食べたかったから……」


 和泉は照れくさそうに笑った。


『そんな、ワシなんて待たなくてもよかったのに』


 でも、和泉と食べるお昼は、おいしかった。

 結構たくさん米食べたんだけど、やっぱり物足りなくて、そう言えばワシは持ってきた米を化け狸ちゃん達に渡してないことを思い出した。

 米10キロ入ったリュックを背負って、台所にお邪魔した。化け狸の女の子たちがきゃいきゃい言いながら後片付けしてる。九さんのところの子狐たちは小中学生って感じだったけど、深山さんのところのは中高生って感じだ。

 女の子たちの一人がワシに気づいた。


「あ、何かご用ですか?」

『あの、ワシ、ここにいる間米いっぱい食べたいから、米いっぱい持ってきたんだ。余ったら好きに食べてくれ』


 ワシがリュックから米の袋を出すと、女の子たちは驚きつつも喜んでくれた。


「わ! ありがとうございます!」

「こんなに!」

「今高いのに!」


 ワシは、リュックからもう一つ箱を出した。


『あとこれはお土産、うまいひとくちチョコ100個』


 手土産くらい持ってきたほうがいいかなと思って用意してきたんだ。ゴディバのだから、たぶんうまいだろう。

 女の子たちは、さらに歓声を上げた。


「ありがとうございます!」

「うれしい! 洋菓子あんまり食べれないんです!」


 きゃいきゃい騒いでチョコを取り合う女の子たちの後ろに、一人しょぼんとしてる子がいるのにワシは気付いた。


『どうした?』

「その……」


 女の子が返事をしようとしたその時、深山さんが台所に顔を出した。


「いただきなさい、菊花。この間のことは、あれで済みましたわ」

「は、はい」


 菊花と呼ばれた女の子は居住まいを正した。


『どうかしたのか?』


 深山さんは「ちょっとね、この子はこの間やらかしたので」とつぶやいた。


「その……和泉が探し出したいんすたぐらむとやら、この子のやったことでしてね」

『ああー……』


 ああそうか、そりゃものすごく叱られたんだろうな、それでまだしょぼんとしてるのか。

 深山さんは「あと、和泉にも伝えましたけど、あなたにも謝らなければなりませんわ」と言った。


『なんで?』

「ブンにあなたたちの動きが漏れたの、わたくしの責任ですの。知り合いの化け狸に話してたのを、ブンの知り合いに聞かれてたようで。本当に悪かったですわ」

『いやー、それでも悪いのブンって奴だろ、深山さんが謝ることないよ』


 そんな事を話しつつも、ワシはなんとなく菊花ちゃんが気になっていた。ひとつチョコを手に取ってるものの、やっぱり元気がないので。


『なあ、あんた、部屋来いよ、和泉ならいい感じのネットの使い方教えてくれるよ』


 ワシが菊花ちゃんに声を掛けると、深山さんも「ああ、いいですわね」と頷いた。


「変なことしないように、きっちり教えてあげてくださいまし」


 そういう訳で、ワシは菊花ちゃんを連れて和泉のいる部屋に戻った。

 ワシは和泉に事情を説明して、菊花ちゃんに自己紹介を促した。


「菊花と申します……」


 菊花ちゃんは正座して和泉に頭を下げた。


『な、いい感じのネットの使い方教えてあげてくれよ』


 和泉は、あごに手を当てて首を傾げた。


「使い方は……うーん、菊花ちゃんは、ネットを「使う」のはそれなりにできてるんだよね、一応」


 菊花ちゃんは不思議そうだ。


「そうですか?」

「ある程度ネット使えないと、あんなにたくさんSNSのアカウント作れないだろ?」

「まあ……うちにいる他の子よりは使えます、読んだり調べたりは苦にならないので」


 菊花ちゃんはおずおずと頷いた。


「じゃあ、自分で使い方を調べて自分でやる、っていうのはやっぱりできてるね。だから、身に付けなきゃいけないのは、うまいSNSとの付き合い方だ」

「そうですか?」


 菊花ちゃんは首を傾げ、和泉はなぜかワシに目をやった。


「千歳なんか、いいSNSの使い方してるからね、バズるとかじゃないけど」

『えっワシ!?』


 なんでワシに話が来るんだ!?


「だってさ、千歳は特定されない範囲で、うまくできた料理の写真とか上げて、ほどよくいいねもらったりリアクションもらったり、平和に使ってるじゃん」

『料理の写真しかあげてないだけだぞ?』

「かなり強い護身だよ、それ」

『そっかなあ』


 料理の写真以外、投稿するようなことないだけだけどなあ、大して面白いこと書けないし、役に立つこと知ってるわけでもないし。

 菊花ちゃんがワシに聞いてきた。


「千歳様のSNS、見せていただいてもよろしいですか?」

『いいけど、ワシ、インスタグラムやってないぞ。今やってるのはMisskeyとBlueskyくらいだ』


 Twitterもやってたけど、いいねとかリアクション貰えるのはMisskeyのチャンネルとBlueskyのハッシュタグに流した時だから、最近はほとんどそっちなんだよな。


「じゃあ、Blueskyを見せていただけませんか?」

『ちょっと待て』


 ワシがスマホを出してBlueskyの画面を見せると、菊花ちゃんもスマホを出して、ワシのアカウントを見つけたみたいで、「なるほど……」と頷いた。


「これが賢いSNSの使い方……映り込みもないし家の近くの写真もない……」


 和泉が微笑んだ。


「わかってるじゃない。一応、千歳のアイコンは家の近くで撮ったスズメなんだけど、切り抜いて特定されないようにしてあるしね」

「和泉様は、どんなふうにSNSを使ってらっしゃるんですか?」

「基本的に、個人特定されそうなことは投稿しないよ、見るのがメイン。投稿するとしても、不特定多数に見られて大丈夫なことだけだな、ネガティブなことは書かない。個人特定されそうなことで何か愚痴りたいことがあるときは、友達のDiscordサーバーで駄弁らせてもらってる。Discordならクローズドだしね」


 菊花ちゃんは「完璧な護身ですね……」とため息をついた。和泉は照れ笑いした。


「大した事ない。でも、君なら個人情報の出し方さえ気をつければネット使いこなせそうだね」


 菊花ちゃんは憂鬱そうにした。


「なんか、何かあると私ばっかり調べさせられるんですよ、他の子もスマホもらったのに使いこなせてなくて……それなのに、深山様は私に一番勉強も修行もやらせるから嫌になっちゃって……」

「そっか、大変だったね。他の子は、どれくらい分かってない感じ?」

「みんな、検索もまともに使えないです。スニペットとAI要約で全部わかった気になってます」

「じゃあ、俺の方からみんなにその辺教える時間取ろうか。他の子も使いこなせたほうがいいからね」

「本当ですか!?」


 菊花ちゃんは目を輝かせた。


「パソコンとかネットができない人の面倒見続けるの、IT介護っていうんだけどさ、それ続くのつらいだろ? 他の子も最低限はできるようにしたいよね」

「そうなんです! まさに介護なんです!」


 菊花ちゃんは頭をブンブンと縦に振り、ワシは菊花ちゃんが元気になったから少しホッとした。

 お礼を言って帰っていく菊花ちゃんを見て、ワシは和泉に言った。


『やっぱお前に頼ってよかったよ』

「大した事ないって」

『そんな事ないって』


 さっきの強い霊との対決も、和泉がいなかったら、きっと手がかりもなしに逃げられちゃってた。

 だから、やっぱり和泉は頼りになる。

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