ふん捕まえて尋問したい
どうしようかと思っているうちに、千歳は気絶しているたぬきを綱でぐるぐるに縛り上げてしまった。
『絶対しょうもない奴だ、起きる前に縛っとくに限る』
「まあそうだけども……」
ブンさん、あんなにぶん殴られて脳とか大丈夫なのかな? 化け狸なら平気なのか?
「化け狸なんだよね、深山さんに見せたら、どこの誰かわかんないかな?」
『とりあえず、寺まで戻ろう』
俺は千歳(黒い一反木綿のすがた)に抱え上げてもらい、千歳の尻尾には縛り上げたブンさんをぶら下げて、元のお寺まで戻った。
心配そうに見上げるお坊さんや九さんに、千歳は呼びかけた。
『おーい! 和泉平気だった! 犯人も捕まえてきた!』
九さんが「大丈夫か!?」と駆け寄ってきた。
「犯人はその化け狸か?」
『うん』
ボンと朝霧の忌み子に戻って、縛り上げたたぬきを吊るし上げる千歳。俺は補足説明した。
「ブンって名乗ってました、千歳の涙が欲しくて私を痛めつけたかったそうです。千歳が全力で殴ったので今のびてます」
「ブン?」
九さんは眉をひそめた。
「……何百年も深山に言い寄っている男化け狸、確かブンと言ったな」
「え、そんなつながりが」
「まあ、深山に見せればはっきりするじゃろう。すまぬ、和尚、深山の土地への扉を開けてくれぬか」
九さんは、恐る恐るといった体で後ろについて来ていたお坊さんに言った。
「はい、それはもう、すぐご案内します」
俺達は本堂の裏に案内され、そこにある小さな納骨堂らしき建物の扉にお坊さんは手をかけ、何事か唱えてから開けた。
扉の先には、新緑の山と、段々畑、その奥に花畑があった。
「こちらから深山様のお住いに行けます、どうぞお入りください」
「すまぬな」
「ありがとうございます」
『ありがとー!』
九さんと俺と千歳で扉をくぐる。
「あっちが深山の家じゃな」
九さんが指差す方には、大きめの古民家があった。
『こんなのかついでお邪魔して平気かなあ』
千歳はブンさんをこんなの呼ばわりした。
「深山は化け狸の管理もしておる、むしろ感謝されるかもしれん」
そういう訳で古民家に向かうと、タヌキの耳付きの若い女の子達が出迎えてくれた。
「お待ちしておりました……え、その化け狸、だれですか?」
「妾たちもブンと言う名しかわからんのじゃ。こいつは和泉をさらって乱暴狼藉を働こうとしての、千歳が殴って捕まえたんじゃが、深山の知り合いでないか聞きたいのじゃ」
「そんなことが!?」
俺と千歳も経緯を話しているうちに「遅かったじゃありませんの」と奥から深山さんが来た。
「いったいどうし……ブン!?」
『あっ、やっぱり知り合いか?』
「ちょっと、どういうことですの?」
経緯を説明すると、深山さんは大きくため息をつき「怨霊」と千歳に呼びかけた。
『なんだ?』
「そいつが目を覚ましたら、もう一発殴ってもよろしくてよ」
『マジか……』
そんなに並々ならぬ仲なの?
「とりあえず、わたくしが物置に逆さ吊りにしておきますわ。貸してくださらない?」
『あ、うん』
千歳はブンさんをつるし上げた綱を深山さんに渡し、深山さんは一旦外に出て家の裏へ向かっていった。確かに物置らしき小屋がある。
「深山に聞いてよかったのう」
「よかったですが、ブンさんが千歳の涙が欲しかった理由がわかりませんね」
『ワシの涙って、なんかすごく霊力あるんだよな?』
千歳の涙ですごく強い術式が焼き切れる、ということが前あったのである。
九さんは頷いた。
「そうじゃな。そのあたりに理由があるんじゃろう」
深山さんが戻ってきた。
「お騒がせして本当に申し訳ありませんわ、ゆっくりして荷物をほどいていてくれていいのですが、後でブンの尋問に付き合ってくれませんこと?」
「尋問!?」
『尋問!?』
そんなに仲悪いの!?
びっくりしていると、小屋の方から聞き覚えのある野太い声で「ほどけー! 離せー!!」との叫びが聞こえてきた。
「無視してよろしくてよ、化け狸は人間と違って逆さ吊りにしたままでも死にませんから」
人間って逆さ吊りにしたままだと死ぬの!?
『ワシの涙が欲しい理由知りたいから、荷物置いたら尋問すぐ付き合うよ』
俺は深山さんに聞いた。
「私も一緒にいてよろしいでしょうか?」
「いいですわ。部屋に案内させますから、荷物を置いたら物置に来てくださいまし」
そういう訳で、俺達は案内された部屋に荷物を置いた後、化け狸の尋問に付き合うことになった。




