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梅のついでに聞いときたい

 GW最終日。千歳が、星野さんからまた梅をいっぱいもらってきた。ぱんぱんの大きいビニール袋を両手に下げて、千歳はウキウキである。


『梅干しも梅シロップも梅ジャムも作れる!』

「よかったねえ、今年もごちそうになります」

『赤紫蘇ももらってきたから、今年は紫蘇梅干しだ』

「おっ、いいね」

『できたら星野さんにもお返しするんだ』


 しかし星野さん、もう千歳に何か作ってもらうことを前提に梅と紫蘇をくれてないか? いや、千歳は料理好きだし、好きで作ったものを星野さんにお返しにあげて、それで仲良くできてるんだからまあいいか……。

 千歳は台所で梅を洗いながら言った。


『お前さあ、時間あったら梅のヘタ取るの手伝ってくれよ』

「ヘタ? どんなの?」

『これ、このちっちゃいやつ』


 千歳は梅を一粒取って、梅についた茶色の点を見せてきた。へえ、これヘタなのか。


「どうやって取るの?」

『爪楊枝でくりくりっとやればすぐ取れる。量あるからさ、2人でやりたい』

「わかった」


 千歳はザルに上げた梅を食卓のテーブルに持ってきて、俺と千歳は食卓の座椅子に座って梅のヘタを取り始めた。


「簡単に取れるもんだね」

『簡単だけど、これ全部1人でやるのは流石に退屈なんだよな』

「そうだねえ……」


 話し相手くらいいないとねえ。

 昔の農家のおばさんたちは、近所の人たちや自分の子どもとおしゃべりしながらこういうことやってたのかなあ。そうか、YouTubeで人気な作業雑談みたいなのは、昔からあったんだな。


『なあ』


 千歳が梅に視線を落としつつ言った。


「何?」

『お前さ、閻魔様に結構大変な頼み事されたじゃん』

「まあ……結構大変だね」


 狙われるかもしれない。襲われるかもしれない。たまに深山さんや九さんのところで息抜きさせてもらえるとは言え。

 千歳の眉尻が下がった。


『おまえさ、それで……嫌になったりしてないか? 不幸じゃないか?』

「不幸?」


 どういうこと?


『いやさ、お前、これまでの人生割と大変だっただろ? それでも、和束ハルのこと一件落着して、気楽に暮らせるようになったなと思ったら今回のことだろ?』

「まあ……そうだけど」

『なんかさ……つらくなってないかなって。今大変だから、好きな人にアタックするのやめてるのかとか思っちゃって』

「え、ええ……?」


 千歳、そんな事考えてたの?


「いや、別に不幸とかは……責任持ってやろうとか、やるべきことはやりたいとか、そういう意味でのプレッシャーはあるけど、それだけだよ。そんな、人生嫌になんかなってない」


 そう説明すると、千歳は俺に不安そうな目を向けた。


『じゃあ、お前、好きな人にアタックも諦めてないか?』

「……閻魔大王様の頼み事は、その辺に一切影響してない」


 閻魔大王様のことがあろうとなかろうと、俺は千歳に気持ちを伝えられないんだよ!


『本当か?』

「本当」


 俺が千歳の目をじっと見つめると、千歳も俺の目をじっと見て、そして信じてくれたみたいだった。


『じゃあ、お前はちゃんと好きな人にアタックするんだな!』


 千歳は笑顔でそう言ったが、俺は咄嗟に何も言えず、一瞬黙ったので、千歳は訝しげな顔になった。


『おい、お前……もしかして、閻魔様のことがあろうとなかろうと特にアタックしないって意味じゃないだろうな……』


 バレた。


「い、いやその……」


 千歳は眉尻を釣り上げた。


『このバカ! お前が好きな人いるって言うからワシ他の女とくっつけようとするのやめてたんだぞ! そんなだったらまた他の女とくっつけようとするぞ!』

「か、勘弁! ご勘弁を! 嬉野さんの時みたいなことは本当にやめて!」


 あれマジで仕事に影響あるところだったんだぞ!


『あそこまで強引にはしないけどさ。よさそうな人がいたらワシから粉かけてくからな』

「マジで……?」


 普通に困るんだが……。


「え、えっとその、俺、好きな人への気持ちはとても強いので、どんなに素敵な女の人を連れてこられてもちょっと……」

『付き合ってみたら好きになるかもしれないだろ!』


 確かにそういう関係もあると思うけどさあ!


「本当に勘弁してください、その、アタックとまでは行かないけど、好きな人に好かれるために努力してはいます、ただ相手が恋愛に一切興味ないので実らないだけなんです、本当に勘弁してください」


 千歳に好かれるための努力ならいくらでもするし、実際にかなりしてると思うんだよ俺!

 俺が本気で頭を下げたので、千歳の態度は少し軟化した。


『好かれるためにがんばってるなら、アタックだってできるだろ』

「えっと、そこは非常に難しい問題でして……人間として好かれてはいると思うのですが、恋愛的な意味でとなると非常に難しく……」

『めんどくさい女だな……』


 千歳は渋面になった。千歳のことだよ!! 正確に言えば女の子ではないけど!

 俺はまた頭を下げた。


「どうか俺のペースでやらせてもらえませんか、機を掴んだら、もし相手がその気になってくれたら一気呵成に攻めるので」

『そんなら任せるけど、あんまりのんびりしてるようだったら、いい感じの女にお前といい感じになってくれないか頼んだりはするぞ』

「マジかあ……」


 閻魔大王様の頼み事より気が重くなってきたぞ……。

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