番外編 金谷千歳と週報
あかりさんからLINEがあった。
「いろいろありましたが、あれから変わったことはありますか?」
『うーん、九さんに、たまには襲われる心配ない異界に休みに来ないかって言われた』
「ああ、南さんから伺ってます」
『それくらいかなあ、あ、でも今建ててる家が探してる魂10体に壊されたら嫌だなあって和泉と話したりした』
不動産屋と保険会社に聞いたら、他人に壊されて犯人が賠償できない場合は火災保険対応だそうだけど、そもそも壊されるのが嫌だろ。
「では、うちに霊的な力による破壊を防ぐ術式があるので、それをお渡ししましょうか?」
『あっ欲しい! いくら?』
「いえ、お代は多分結構です、緑さんと金栄さんの判断になりますけど、経費にできると思いますので」
『本当? ありがとう!』
「それで、ここからは個人的なお願いなのですが」
『何?』
「その、私ともっと近況をやりとりしていただけないでしょうか?」
ん? どういうこと?
『うん、できるけど、どうしたんだ?』
「あの、今、緑さんとっても忙しいんですよ」
『そうみたいだな』
「上島家との折衝と、魂十体の母親探しの統括と、普段の仕事だけでもういっぱいなんですよ、緑さんと千歳さんは親しいから、千歳さんからの情報提供も緑さんが主に受けてましたけど、その辺、私ができるなら引き受けたくてですね」
『そっか』
そうか、緑さん大変なのか……。
『じゃあ、何かあったらあかりさんに話せばいいか?』
「もしよかったら、外出した時と場所を日報とか週報みたいに書いて送って頂けると大変ありがたいんですけども」
『日報? 週報? ごめん、どんなのかよくわかんない』
「その日とかその週の活動報告みたいなのですね、活動の上で気になったことも書き添える感じです。千歳さんの場合は、千歳さんと和泉さんの外出先と、その時気になったことを書いていただけるとありがたいです」
『ふーん、書き方とか送り方って和泉に聞けばわかるかな?』
「和泉さんご存知でしょうし、ネットで調べれば書き方の解説もたくさん出てきます。送るのは私の、篩建築事務所分所で使ってるメールアドレスだとありがたいです」
『メールアドレスわかんないから、それだけ送ってくれないか?』
「わかりました」
メールアドレスはすぐ送られてきた。
『大変だな、あかりさん、もうすぐ結婚式なのに』
「それは大丈夫です、もう決めることは全部決めてあるから、あとは前日入りするだけ。大変なのはドレスのためにダイエットし続けることだけですね」
『別に全然太ってないだろ?』
「人生イチの大舞台ですよ!悔いのない状態で出たいんです!」
『そっか』
まあ、たぶん人生で一度の晴れ舞台だしな。
「今週の金曜から週報出していただければいいんですけど、気になることがあった時はその日の分の日報もお願いします」
『うん、わかった。和泉にいろいろ聞いてみるな』
和泉に、あかりさんから言われたことを話すと「なるほどね」と頷いていた。
「あったこと、文書で残ってるとそれだけで役に立つからね」
『ワシ、タイピングがんばる!』
「千歳のタブレットとキーボードで一応できるかな、マウスも欲しいか? OfficeないけどGoogleドキュメントが使えるか……テンプレは……土日の欄もいるし、俺が適当に作るか」
『テンプレってなんだ?』
「テンプレートのこと。なにか作ったり書く時の【型】みたいなの。週報だと曜日ごとの欄とか備考欄とか入れた表、みたいな感じかな」
その後、和泉がテンプレートってやつをくれて、ワシはGoogleドキュメントっていうのの使い方を教えてもらった。
『そっかあ、書類ってこうやって作るのかあ』
「千歳は一応、篩建築事務所分所に雇われてる人だからね、これも業務と思ってがんばりな」
『がんばる! わかんないことあったら教えてくれ』
「もちろん」
和泉は笑ってくれた。
和泉はやっぱり頼りになる。単純な強さで言ったらワシのほうがはるかに上だけど、和泉がそばにいたら、ワシの力と和泉の頭で、何でもできるんじゃないかって気持ちになる。




