どっちの服でも肯定したい
のんびりとした日曜日。千歳と二人でお昼を食べながら、俺は口を開いた。
「午後さ、結婚式用のスーツ買いに行こうかなって」
ゴールデンウィーク後半に、狭山さんと金谷さんの結婚式があるのだ。
千歳は心配そうな顔をした。
『お前一人で大丈夫か?』
え、俺、一人で服もまともに選べないと思われてる?
「大丈夫、店員さんにいろいろ聞いて探すよ」
『違うバカ、探してる魂10体に襲われないかってことだよ』
「あっそうか……どうしようかな」
強力なお守りがあるし、普通に暮らせとは言われてるけど、やっぱり気は抜いちゃいけないよな……。
『服屋、ワシもついてく』
「ごめん、ありがとう。千歳は結婚式どんな服の予定?」
ドレスか何か着て、美容院で髪結ってもらったりするのかな? 千歳が着飾ったところ、正直見てみたいけど……。
『ん? 制服』
千歳は何でもないように言った。
「あ、ああ、確かにフォーマルではある……どんなの?」
かわいく着飾った千歳を見たかったが、制服は結婚式も葬式も天皇陛下への謁見もできちゃうドフォーマルだからな……無難ではあるか。
千歳はサンドイッチを頬張って言った。
『食い終わったら着てこようか?』
「あ、見たい見たい」
食べ終わって、俺が皿を洗う間に千歳は着替え、俺の前に出てきた。紺色のブレザー、赤チェックの胸リボン、そして……ブレザーと同じ色のスラックス。
『ほら、正装だろ?』
千歳は俺の前でくるっと回ってみせた。長い黒髪がふわっと広がる。体形に合ってるし、確かに似合ってはいるが。
「スカートじゃないんだ?」
『うーん、なんだかんだ言ってワシのこの体、女じゃないから、女の制服でいいのかなって思ってさ』
千歳は腕組みした。
『それ星野さんに話したら、ワシは体型女だから女物がいいだろうけど、最近の女子の制服はスラックスもあるって言われて、じゃあそれで妥協するかって思って』
「なるほど」
そうか、千歳も千歳なりに色々考えてこうしたわけか。
千歳は、確かに女性と男性の両方の特徴を持った体だ。本人の自認も、女性男性どっちでもない。肉体と自認が一致しなくて苦しんでる人はたくさんいるわけだから、肉体と自認が一致してるというのは、たぶんラッキーなのだろう。
だから、服装も別に、女性でも男性でもいいんだよな。
「似合ってるよ、じゃあ、その服で一緒に結婚式行こうね」
俺は、千歳に笑いかけた。
 




