流石にショックを隠せない
アポを取って、川崎の緑さんの事務所に出向いた。緑さんはにこやかに紅茶を出してくれたが、わざわざ来たということは何かあるなと勘づいてはいるようだ。
俺達は【波羅蜜の館】での一件を話した。朝霧春太郎氏、すなわち緑さんの旦那さんが本人も知らないところで実の子供がいること。で、その子たちが閻魔大王様の探す魂の器かもしれないこと。
緑さんは、流石に愕然としていた。
千歳が困りつつも言った。
『信じられないかもしれないけど、上島家の人が同じ術使えば確かめられるって言われて……』
緑さんはうめいた。
「そう……そうなの……」
額を抑える緑さん。千歳はしょぼくれてしまった。
『ごめん、言いづらかったんだけど、やっぱり閻魔大王様の頼み事に関わるかもしれないから言ったほうがいいって和泉に言われて……』
俺は頭を下げた。
「申し訳ありません、お伝えしないほうがまずいだろうと思いまして」
緑さんは「いえ」と首を横に振った。
「確かに、私が一番に知ったほうがよかったので……そうか……」
緑さんは大きくため息を付き、そして言った。
「その……私は不妊治療についてそこそこ調べたのでわかるんですけど、精子提供と、医療があれば10人くらいできる可能性はあるんですよね」
『そうなのか?』
千歳は目を丸くした。
「私の旦那が、無精子症じゃなくて乏精子症……精子の量が少なくて不妊な人間ならって話だけど」
『精子少ないのにできるのか?』
「体外受精とか、特に顕微受精ならね……顕微鏡で見ながら卵子に精子を1個だけ入れるってやつ。着床率考えても、極論、精子が30個もあれば、10人くらいできておかしくないのよ」
『へえー……』
俺は、ふと疑問に思って聞いた。
「でも、それって卵子も要りますよね?」
「要ります。でも、若い人なら1回の採取で10個くらい採れるし、受精卵を凍結保存もしておけるから……不妊治療に繋がってて、母体が妊娠出産に耐えるなら……可能性は普通にありますね」
「そうなんですか……」
そうか、精子と卵子がたくさん保存してあれば、10人も可能性はあるのか……。
緑さんは眉根を寄せた。
「でも、病院から当たるのは難しいですね、患者情報なんて個人情報の極致だし……とりあえず、旦那に精子提供の経験があるか吐かせて、上島家に旦那の子供の存在を確かめてもらうのををやります。ありがとうございます」
緑さんは頭を下げた。千歳が心配そうな顔をした。
『緑さん、ショックじゃなかったか?』
「……実は、だいぶショック。でも、やらなきゃいけないことたくさんできたから」
緑さんは笑顔を作ったが、無理に笑顔を作っていることは俺から見ても分かった。
「ごめんね千歳ちゃん、心配かけて。大丈夫よ」
『愚痴ならいつでも聞くからな?』
「ありがと。和泉さんも、ありがとうございます」
緑さんは、俺に向けてまた頭を下げた。
緑さんは、多分強い人なんだよな、でもそれでもショックだよな……。俺にできることは、何もないけど……。




