意外な事実がわからない
占い師の館、【波羅蜜の館】に来た。館と言うほど大きな作りではなく、小さめのビルの貸し部屋だったが、店先にはちょっと中華風の赤い提灯が何個も吊るされ、極彩色のカーテンが引かれていた。
千歳がそれらの設えを見て言った。
『霊力こもった術式がある。視えやすくするお香か何かも焚いてる。ここ、やっぱり素質のある人がいるぞ』
「霊感ある占い師さんってこと?」
『多分』
予約の時間なので、「すみません、失礼します」と声をかけて、カーテンを開きドアを開ける。うわ、タバコくさい……。
すると、さらに引いてあるカーテンの奥からお婆さんの声がした。
「来たねえ、噂は聞いてるよ、和泉豊さん、金谷千歳さん」
う、噂? どの辺の噂だ?
とりあえず、「失礼します」と声をかけてまたカーテンを開くと、そこには痩せぎすのお婆さんがキセル片手に座っていた。確かに、何の石だかわからないようなネックレスとブレスレットをじゃらじゃら付けている。
「こ、こんにちは、噂とは……?」
「その前に自己紹介をしなきゃね」
お婆さんはキセルを吸い付け、ふうっと煙を吐いた。
「アタシの本名は上島ミツ。上島八重穂の娘さ、母がすまないことをしたね」
上島八重穂。朝霧の忌み子の遺骨で千歳の核を刺し、千歳の中の霊を解放して大騒動を起こしたお婆さんである。
千歳が目を丸くした。
『え、マジか!? じゃああんた、バリバリに素質あるだろ!?』
「まあ多少あるけど、アタシは若い頃駆け落ちしてね、そっから心霊業界からこぼれててさ」
あ、だから野良。
『もったいない』
千歳は本当に残念そうな顔をした。
「まあ、アタシは精神病とマジの憑かれたのを見分ける程度はできるからね。精神病は病院に誘導して、マジのは自分で落としたり伝手を頼ったりして、食っていってるわけさ」
だ、だから客を割とまともな方向に誘導してるのか?
俺は、上島ミツさんに聞いてみた。
「その、私の母はたぶん憑かれていませんけど……」
「あんたのお母さんは性格だね。アタシがあんたらに会いたかったから、あんたが憑かれてるって話に誘導してね、連れてきてもらったのさ。除霊の真似事すれば、ああいう手合いは納得するからね」
「まあ……否定できませんが」
占い師の言うことなんでも聞いちゃうような俺の母親なら、除霊するっていうのも信じるよなそりゃ。
上島ミツさんはまたキセルを吸い、ふうっと煙を吐いた。
「あんたのお母さんみたいな人は、本来はカウンセリングってやつにかかるべきなんだろうけど、みんな行かないからねえ、アタシみたいな占い師が儲かるんだ」
ああ、そう言えば、ここの占いってカウンセリングくらいの価格設定だったな……。
俺は口を開いた。
「除霊のふりくらい受けますが、何かご用事ですか?」
「あんたらの耳に入れたい話があってね。野良だとなかなか中心の人に伝えられないのさ」
「どういうお話でしょう?」
「あんたら、朝霧緑と親しいだろ?」
千歳が頷いた。
『うん、友だち』
「よくしていただいてます」
俺も首肯した。
「朝霧春太郎が朝霧緑にしたことも知ってるだろ?」
「はい、まあ」
『ひどいよな』
千歳が眉をしかめた。
朝霧春太郎、緑さんの夫。頑なに自身の不妊を認めず、よその女に手を出しまくり、緑さんに子宮頸がんのもとになるウイルスを移して緑さんが子宮を摘出する原因になった男である。
上島ミツさんは、またキセルを吸い、煙とともに言った。
「朝霧春太郎ね、実の子供いるよ。本人は知らないみたいだけどね」
「へ!?」
『えっなんで!?』
ど、どうやって作ったんだ!?




