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不思議な縁に戸惑いたい

 千歳に壁ドンさせられてから数日。緊張しつつも、日々のやることを普通にこなしている。

 日々のやることを普通にこなさないといけないので、気の重いこともやらなければいけないのである。両親が実家と店を売って引っ越すアパートの、保証人のサインをしに行くとか。

 契約する不動産屋の最寄りの駅、つまり俺の実家の最寄りの駅で父親と落ち合ったのだが、父親は比較的元気そうな顔をしていた。


「今日は悪いな」

「まあ、必要な事だから。どんなアパート借りるの?」

「店から少し歩いたところの、2DKのバストイレ別だな。2Kのほうが費用抑えられたんだけどお母さんがいやがってな……」

「まあ……アパートぐらしを了承させられただけでもよくやったんじゃない?」


 生活レベル落とすの、母親はだいぶ抵抗しそうだからな。


「よくやったのは、俺じゃないんだ」


 父親は不思議なことを言った。


「ん? どう言うこと?」

「そのことについて、話と言うか、また頼みがあって……不動産屋のあと、少し話せないか?」

「…………」


 俺が露骨に渋い顔をしたからだろうか、父親は慌てて付け加えた。


「お前に金をせびるような話じゃない! 頼む!」

「……まあ、話は聞くよ」


 厄介事じゃなければいいんだけどな、もうすでに厄介事ひとつ抱えてるのに……。

 不動産屋に行き、書類にサインした後。とりあえず駅の近くの喫茶店まで移動し、話を聞いた。

 父親の話はこういうことだった。


「お母さん、薬をちゃんと飲むようになって、注射も嫌がらなくなって、安定して治療を受けてくれるようになったんだ」

「いいことに聞こえるけど……何かあるの?」

「それをするようになったのが……その、ある占い師のおかげなんだ」

「占い師ぃ?」


 またなんか変なのに傾倒してるの?

 父親は俺を落ち着かせるように言った。


「いや、気持ちは分かる。確かに怪しいことばかり言ってる。でも、価格は臨床心理士のカウンセリングくらいだし、怪しい言葉でお母さんにやらせることが「病院の薬で瘴気を防げ」とか「医者の注射で瘴気を追い出せ」とか「この新しい住まいは運気が良くて幸せに暮らせる」とか、いい方に誘導することばっかりなんだ」


 え、それじゃあ。


「お母さんが素直にアパートぐらし了承したの、その占い師のおかげってこと?」

「そうだ。すごく助かってて……お母さんの世話には本当に疲れてたんだが、やっと楽になった」


 だから割と元気そうだったのか。

 父親は続けて話した。


「それでな、その占い師が言うんだ。「怨霊にさらわれた息子の名前が和泉豊、怨霊の名前が金谷千歳なら、私が息子を取り戻してやる」って」


 母親の脳内では、俺すなわち息子は怨霊にさらわれて、ゴムマスクの偽物しかいないということになっている。それを、どうにかすると言っている?


「ええと……確かに千歳のフルネームは金谷千歳だけども……」


 その占い師、俺と千歳の名前を知ってるってこと? 母親が話したのかもしれないが、あの人千歳のフルネーム知ってたっけ?

 父親は言った。


「で、お母さんにはそういう言葉だったんだけど、俺にもその占い師から打診があったんだ。「あんたの息子が和泉豊で、その同居人が金谷千歳なら、一度二人を私と会わせてくれないか、話がある」って」

「ど、どういうこと……?」


 俺は困惑した。言葉こそ怪しいが、誘導している方向はまともな占い師が、俺及び千歳と会いたがっている?


「その占い師、どういう人なの?」

「そこそこお婆さんで……なんというか、お母さんみたいな人の求める言葉をわかってて、そういう言葉をかけながらまともな方向に誘導してる、っていう印象がある。あと、なんの石だかわからないネックレスとブレスレットをじゃらじゃら付けてて、いつもキセルでタバコ吸ってる」

「クセの強そうな人だなあ」


 この時代にキセルでタバコ、だいぶ喫煙にこだわりがある人だぞ。


「この名刺にな、場所が書いてあるから、予約取って千歳さんと行ってくれないか? この件に関しては、支払いはいらないそうだ」


 ああ、だから金をせびるようなことではない、と……。

 父親が渡してきた名刺を見る。【波羅蜜の館】。場所は……戸塚区か。


「……千歳に話してみて、それから決めるよ。二人で行かなきゃいけないんだろ?」

「頼む」


 父親は、深く頭を下げた。

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