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やるべきことはやらせたい

 閻魔大王様の頼みから数日。東京のホテルに全国の心霊業界の人を集めて、今回の件の情報共有が行われた。

 緑さんが音頭を取り、俺と千歳と藤さんも出て、自分たちも努力するが協力が欲しいことを言う。

 全員、割と動揺してざわついていたが、皆の意見を聞く段階になって、まだ若い女の人がひとり手をあげた。


「高い素質のある人は、存在が知られている可能性が高いです。ここ18年で行方知れずになっている高い素質の人がいないか、調査するのはどうでしょう。特に女性は、知られずに10人も産めませんから、行方を隠しているかもしれません」


 確かに。

 緑さんが頷いた。


「やりましょう。みなさん、ご協力をお願い致します」


 とりあえずその場で決まったのは、10体の魂の親かもしれない人を探す、ということだった。

 とは言っても、情報が集まったり俺たちに何かあったりするまで普通に過ごすしかない。なので、緊張しつつも、俺は仕事、千歳は家事の日々を過ごしていた。

 夜、夕飯もお風呂も済ませた後のまったりタイム。こたつを片付けたのでソファに座ると、千歳も隣に座ってきた。


『いろいろ気が休まらないけどさー、いつものやることはやらないといけないよな』

「そうだねえ……」


 普通に仕事あるし、生活もあるし、それらをおろそかにしてはいけないのだ。それを意識していて、千歳はえらいな。

 そう思ったのだが、千歳が言ったのは予想外のことだった。


『だからお前、好きな人ちゃんと口説けよ』

「そっち!? 無茶言わないでよ!」


 やることってそれかよ!


『最近は壁ドンっていうのが流行りって聞いたぞ! してこい!』


 千歳は俺の肩を叩いた。


「どこでそんな言葉覚えたの……」


 俺は頭を抱え、少し考えて、壁ドンの詳細を思い浮かべた。


「壁ドンねえ。あれ、よっぽど脈アリな相手じゃないと、怖い思いさせるだけじゃない?」

『そうか?』

「なんだかんだ言って俺も男だしさ、普通の女の人よりは力あるし、背も高いじゃん」

『なきゃまずいだろ、いくらガリでもさ』

「でさあ、相手から見ると、自分より大きくて力も強い相手が、壁に追い詰めてきて、覆いかぶさるみたいになって、逃げにくくしてくるわけじゃん」


 千歳は俺なんて片手で吹っ飛ばせる力の持ち主だが、まあ一般的な女性の話ということで行かせてもらおう。


『まあ……言われてみたらそうだけど』


 千歳は微妙な顔で頷いた。


「もうすでに恋愛関係な人くらいしか許されなくない? だから、俺はやらないし、やれないよ」

『うーん……』


 千歳は腕組みをして考え込み、そして言った。


『でも、お前なら怖くなくやれるかもしれないから、試しにワシでちょっとやってみろ』

「千歳に!?」


 好きな人に壁ドンをやる機会が俺の人生に存在したんですか!?


「えっえっ、いや、まあ、お望みなら……しますけど……」

『ほれ、ワシ壁に行くから』

「う、うん……」


 千歳はソファから立ち上がり、壁に背をつけた。


『ほれ、ドーンと来い』


 俺は、おずおずと千歳の前に立ち、千歳越しに壁に片手を付けた。


「え、えっとこんな感じ?」

『そのままで、なんかかっこいいセリフを言え』

「こ、困るなあ……」


 う、うーん、千歳を仮に口説くとして、今千歳に望むことは……。


「その……こ、今夜一緒にいてくれませんか」

『そこは「今夜は逃さないぜ」だろ!』

「無理だよー!」


 千歳の鋭いツッコミに、俺は両手で顔を覆った。


『かっこよくて、でも危険な男っぽく振る舞えよ!』

「俺は人畜無害なだけが取り柄な人間なので無理です」

『そこまで卑下することないだろ』


 千歳は俺の肩をぽんぽんした。


『お前はさ、いいところたくさんあるんだからさ、壁ドンは確かに合わなそうだけど、優しいとか物知りとか頭いいとか頼れるとか、その辺を押し出していけよ』

「……まあ、その辺は相手も認識してくれてるみたいなんだけど、だからって恋愛に繋がるわけじゃないんだよね」

『難攻不落だなあ』

「……難攻不落だよ、とってもね」


 俺の気持ちは伝わることないんだろうな。でも、そばにいてくれるだけで、一緒に暮らしてくれるだけで、俺は幸せだよ。

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