引き受けるけどおまけ欲しい
千歳を布団に寝かせて、明日まで目覚めないだろうから、俺はとりあえず仕事に集中した。これからまた忙しくなるかもしれないし、今できるところは全部進めておきたい。
作り置きをさっと食べて、簡単にシャワーを浴びて、俺は夜遅くまで仕事に打ち込んだ。
倒れ込むように寝て、朝起きると千歳はまだすやすやだったが、味噌汁を温め直していると匂いにつられて起きてきた。
『おはよう! 腹減った!』
「おはよう、とりあえずご飯食べな」
『食べるけど、昨日何があったんだ?』
千歳は首を傾げた。
「食べながら話すよ」
俺は納豆と味噌汁と白米の朝ごはん、千歳はそれに加えて3合炊き込みご飯。俺は食べながら話し、千歳は一生懸命もぐもぐしながら神妙に聞いていた。
話を聞き終えて、千歳は嘆息した。
『なんか、すごいことになってるな……』
「引き受ける? どうする?」
『引き受けざるを得ないだろ、あっちから来るのに……』
「そっか、じゃあ引き受けるって返事しよう」
嫌がる可能性もあるかと思ったけど、立ち向かうしかない事態だ。それを分かってくれてよかった。
『でも、引き受けるけど、ひとつおまけが欲しい』
千歳は味噌汁で炊き込みご飯を流し込んだ。
「おまけ?」
『お前がさらわれたり怪我したりしないように、閻魔大王様にお守りか何かつけて欲しい』
「あー、なるほど……」
何かあったとして、弱いのは俺なわけだしな。俺たちは閻魔大王様の要請で立ち向かうわけだから、相応のサポートを要求したっていいだろう。
「藤さんが返事聞きに来るそうだから、その時そう頼んでみようか」
『うん』
9時頃に藤さんが訪ねてきたので、千歳は引き受けるがひとつ条件がある、を話すと藤さんも「なるほどね」と言った。
「昨日はずいぶん心配かけちゃったしね……閻魔大王様もその辺の融通は効かせてくれる人だから、頼みは聞いてくれると思うよ」
『そんなら引き受ける!』
千歳は片手で胸をドンと叩いた。藤さんは笑った。
「ありがとう。あと、これまでの君らを見てたら、確かに和泉さんはちゃんと守っておかないとまずいと思うからね」
「そうですか?」
『どういうこと?』
藤さんはすっと真面目な顔になった。
「君ら、お互いにお互いがすっごく大事だろ。どっちかが人質に取られたら何でも言うこと聞いちゃうくらいに」
それは……そうかも。
「……少なくとも、心情的にはそうなっちゃいますね」
『言うこと聞いちゃうかも……』
千歳はしょぼんとした。藤さんは言葉を続けた。
「怨霊くんを人質に取るなんてほとんど無理だし、仮に取られたとして和泉さんはまだ冷静に対処できる方だと思うけど、逆はえらいことになると思う、昨日の怨霊くんの取り乱しっぷりから見て」
『うん……』
しょんぼりする千歳を見る。俺が前に悪霊にさらわれたときも千歳は我を忘れて追いかけたそうだし、九さんに俺がさらわれたときも激怒して我を忘れていたし、確かに、千歳は冷静に判断することができなくなるかも。
俺は、藤さんに聞いた。
「では、閻魔大王様に何か対策を打っていただくということでよろしいですか?」
「うん。朝霧緑さんにも和束ハルさんにも経緯は話したから、協力してくれる」
『和束ハル!?』
千歳は目をまん丸くした。
「あ、そう言えば藤さんなんか話してましたね」
確かに、和束ハルに協力を仰いでたな。
和束ハルか……。また何かやらかさないか、という不安があるが、確かに能力は折り紙付きなんだよな。
藤さんは真剣に言った。
「君らが和束ハルさんを信用できないのは分かるけど、この件に関しては協力取り付けたよ。彼女、高千穗樹さんが何より大事だからね、高千穗樹さんが暮らす世界が脅かされるかもって言ったら、頷いてくれた」
「な、なるほど……」
『そうか、わかったんだなあいつ』
千歳はなぜか、得心したように頷いた。藤さんは「一応、探す魂について補足しとくね」と言った。
「霊力的には、一体一体なら怨霊くんは勝てる。でも、魂複数が複合体作ってくると、勝てるか怪しい」
「複合体?」
どういう意味かわからなくて、俺は藤さんに聞いた。
「怨霊くんはたくさんの霊が集まった複合体だろ? 核になる霊が複合体に向いてれば霊の複合体作れて、数が多いほど強いんだよね。探してる魂が複合体を作るようだったら、やばいってこと」
俺は、嫌な予感がして藤さんに聞いた。
「……探す魂の中に、複合体に向いてるのいます?」
「一体いる。それに他の九体が全部複合したら、怨霊くんでもやばい」
『そんな……』
千歳は怯えたようになった。藤さんは「でも、絶対そう来るとは限らない」と言葉を続けた。
「戦力の逐次投入って愚策なんだけど、知らない人はやりがちなんだよね。だから、一体一体でくる可能性のほうが高いと思ってる、個人的には」
『でも、複合体でくることもあるかもしれないんだよな……?』
「その辺の実力差を何とかするために、和束ハルさんに協力仰いでるわけ。怨霊くんの力を一時的に増幅するとか、彼女の術式ならできるかもしれないから」
なるほど、そういう事もあって和束ハルに協力を仰いだのか。
千歳は、事態を飲み込んだように頷いた。
『……わかった。とりあえずは、和泉を守るのを頼む』
「オッケー、閻魔大王様にちゃんと伝えておくよ」
そう言って、藤さんは帰っていった。




