表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

706/754

閑話 遺伝子とDNA

 春の休日の昼下がり。そろそろこたつも用済みかなと思いつつもこたつに入っていたら、千歳が隣に座ってきて『なあ』と言った。


『あのさあ、ワシずっとわからないことがあるんだけど』

「何?」

『ワシ、DNAっていうのがよくわかんないんだ。なんで親子関係とかわかるんだ?』

「え、高校でやらない? 細胞核に入ってるやつだよ」


 生物で詳しくやった覚えがあるが……それとも、千歳の中の人達は生物選択じゃなかったのか?

 千歳は困ったように首を傾げた。


『遺伝子っていうのはさ、倉沢静の高校の時の知識でなんとなくわかるんだけど、DNAは知らない』

「えっ? 普通セットで……あっ、ちょっと待って」


 手元のスマホで調べてみると、ワトソンとクリックがDNAの二重らせん構造を発見したのが1953年。倉沢さんは1989年の時点で34歳と聞いたから、高校生になったのは1960年前後。ということは……教科書にDNAのことが載ってなくてもおかしくない?


「わかった! 倉沢さんの時代には多分まだ教科書に載ってなかったんだよ、DNAって割と新しい発見だから」

『へー、そうなのかあ』

「遺伝子はわかるんだよね」

『なんていうか、親から子に遺伝を伝える【何か】を遺伝子って呼んでるって』

「合ってる合ってる。遺伝子の本体がDNA、デオキシリボ核酸の二重らせん構造なんだ。DNAの二重らせん構造が生物の設計図なんだよ」

『何がどうしてそうなるんだ?』


 困り顔の千歳に、俺はスマホで二重らせん構造のイラストを見せた。


「DNAの二重らせんって、グアニン、シトシン、アデニン、チミンっていう4種類のヌクレオチドでできてて。グアニンとシトシンでくっついて、アデニンとチミンでくっついて、こんなふうに二重らせん状になるんだ」

『ふうん……構造はわかったけど』

「で、螺旋をたどると、4種類のヌクレオチドでできた配列がものすごく長く続くようになってる」


 俺は二重らせんのイラストを縦になぞった。


『あー、そんな感じだな』

「で、この4種類のヌクレオチドでできた3つの配列で、アミノ酸が1種類指定されてる。アミノ酸はわかる?」

『なんか、タンパク質の細かいのだっけ?』

「そう、人体のアミノ酸は20種類あるんだけど、いろんなアミノ酸がたくさんつながったのが、折りたたまれたりシート状になったりして、いろんなタンパク質になる。つまりDNAは、アミノ酸を指定することでタンパク質の設計図になってるわけ」

『DNAを元にタンパク質ができるのか?』


 千歳はやっとわかってきたようだ。


「そう。で、生物の体はタンパク質が主だし、タンパク質以外のものも、ほとんどがタンパク質でできた器官や酵素が関わってるから、DNAは生き物の設計図と言っていいわけ」

『生き物の設計図だから、親子関係がわかるのか?』

「ものすごく単純に言えばそう。DNAって、タンパク質づくりに関わらない配列もたくさんあるんだけど、そういう配列でも一致部分の割合を検査すれば、親子か祖父母か兄弟か、そういうことがわかる。個人特定もできる」

『へええ、やっとわかった。血液検査より詳しく親子鑑定ができる理由がよくわかんなかったんだ』


 千歳は納得したように頷いた。


「俺も、千歳に聞かれるまでDNAが新しい発見って思わなかった」


 教科書って、科学の進歩に合わせて更新されてるものなんだなあ。今の教科書も、俺が勉強したときよりずっと更新されてるのかも。


『お前、やっぱり物知りだな』

「いや、たまたま高校で生物取ってただけだよ」


 千歳が信頼満点の顔で俺を見てくるので、俺は照れくさくて苦笑した。

 でも、好きな人に信頼されるのはいいものだ……これからも信頼してもらうために、俺もなるべく知識を更新しておかないとな。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ