毎年一緒に見に来たい
やっと春めいてきた日。昼休みに、千歳とお弁当を持って公園に花見に来た。途中で飲み物と3本入ったみたらし団子も買って、1本は俺、2本は千歳。
やっと晴れた日の公園は、まだ春休み中らしい子どもたちが遊び回っていたり、ご老人たちがゆっくり歩いて桜を楽しんだりしている
千歳が、桜の木を見上げて言った。
『ちょうどよく満開だな』
「入学シーズンまで持ちそうだね」
桜は今が花盛り、薄紅の花びらが吹雪のように散っている。千歳のつやのある黒髪に桜吹雪が降りかかり、何枚か積もった。
指摘してあげるべきなのかもしれないが、髪に桜の花びらをまとった千歳は妖精か何かみたいで、俺は思わず見とれてしまった。
千歳自身はお弁当を広げ、『唐揚げに花びらが!』と騒いでいる。確かにお弁当にも桜の花びらが降り掛かっている。
『もー、桜の下で食べるのも大変だな』
「いや、風情があってすごくいいよ」
『そうか? 花撮るのが趣味なやつは違うな』
いや、そういうことではないんだけど。
「ねえ、今年も桜と写真撮ろうよ」
『うん、お前もちゃんと写って、お前のおばあちゃんに送ってやれ』
「あんなんでも喜ぶんだよねえ、おばあちゃん」
いい歳の男が桜と写ってても桜の邪魔になるだけだと思うが、おばあちゃんは孫なら何でもいいみたいだ。
おにぎりをもぐもぐしながら桜を見上げる。なんだかんだで今年も花見に来れたな、来年も来れたらいいな、千歳と一緒に。
千歳が唐揚げを食べながら言い出した。
『そう言えばさ、近い内にワシ、本白神社で仕事しなきゃいけないんだ』
本白神社。うちの最寄りの神社で、和束ハルが封印されているところである。とは言っても、実質は高千穂先生と一緒に暮らしているとのことだが。
「なんかあったの?」
『高千穂先生と和束ハルを一緒に暮らさせるためにさ、少し和束ハルを入れた祠を移動させなきゃいけないんだけど、その時念のために、ワシに封印用の霊力込め直してくれって』
「なるほど。疲れちゃうかな? お米いっぱい炊いとく?」
千歳は、大量に霊力を使ったあと、倒れるように寝てしまい、その後ものすごくお米を食べるのである。
『んー、事前に言われてるから、自分でその辺は準備しとく。で、話はそれじゃなくて、その時お前にも来てほしいらしい』
「俺?」
『和束ハル対策にお前が役立つかもしれないんだって』
「俺が?」
なんか役立つようなことある?
「まあ、来いと言われたら行くけども」
『じゃあ緑さんにそう言っとくな』
そんなこんなでお弁当を食べ終わり、去年桜と写真を撮ったところで自撮りで頑張ってツーショットを撮ろうとしたら、通りがかりの老婦人に声をかけられた。
「あら、よかったら写真撮りましょうか?」
「あ、ありがとうございます、お願いします……ここ押すだけで大丈夫です」
知らない人にスマホを預けるのは不安だったが、人の好意を無下にするのも悪かったので、俺は老婦人にスマホを差し出した。
「はい、じゃあ笑って……はい、ピース! 撮れましたよ」
『ありがとうございます!』
千歳は笑って老婦人に駆け寄り、俺も老婦人に近づいてスマホを返してもらった。
「わっ、すごい、すごく写真がうまい!」
撮ってもらった写真を見て、俺は驚いた。俺と千歳を程よい大きさで撮り、それでいて桜もきれいに入れて写してある。普段写真撮り慣れてる人か、この人?
老婦人ははにかむように笑った。
「老後の趣味にカメラを少しね。スマホで撮るのはほとんどやったことないんだけど」
「ありがとうございます、こんなにいい写真撮ってもらえるなんて」
「あら、そんなに言ってもらえてうれしい」
老婦人は頭を下げて立ち去り、千歳も写真の出来栄えに喜んでいた。
『お前のおばあちゃんも喜ぶな!』
「うん、帰ったら送るよ」
おばあちゃんにLINEで写真を送ったら、「千歳さんと仲いいみたいで本当によかったわ」と返事が来た。桜の感想は?
まあ、孫には桜も霞むのか。おばあちゃんとも、来年またこういうやりとりをしたいな。




