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そのうちこの部屋移りたい

怨霊(女子大生のすがた)(命名:千歳)と一緒に目当ての物件に内覧に来たが、不動産のサイトの写真と遜色なく、明るくて気持ちの良い部屋だった。写真ではわからないような悪臭や騒音も、今のところ感じない。案内の不動産の社員が妙に愛想が良すぎる気はしたが。

不動産の社員はニコニコしながら言った。

「お二人でのお引越しで、お値段を抑えてなら、最適の物件かと思いますよ!」

一人暮らしということで契約すると、千歳の部屋の出入りに目をつけられて「二人暮らしは契約外です」と言われそうなので、今回は二人暮らしでの引っ越しということにしてある。俺は社員に答えた。

「一応、細かく内覧してから決めさせてください。二人で相談もしたいし。千歳、千歳的にはどんな感じ?」

はしゃいで部屋を歩き回り、台所をいじったりベランダに出たりしている千歳は戻ってきて答えた。

『すごくいいな! 今の部屋より広いし! 台所広くて作業場が取れるし! ベランダも広くて明るい!』

「和室と洋室、同じ広さだけど、千歳はどっちの部屋使いたいとかある?」

『スペースあればどこでもいいぞ。あ、でも、夜中ごろごろするのは和室のほうがいいから、和室に布団敷いて、洋室にお前のパソコンとか机とか置かないか?』

もう、完全にこの部屋に移る前提で話している。いや、俺もだいぶその気があるが。

「じゃあ、洋室が台所直通だから、食事用のテーブルは洋室に置こうか」

俺が提案すると、千歳はニコニコしながら答えた。

『そうだな! それがいい! ここにしよう! おっさんの地縛霊いるけど、張り倒して追い出すから、何も心配いらないぞ!』

俺も不動産の社員も硬直した。ややあって、先に硬直が解けた俺(この値段で何もないことはないと思っていたので)は、社員に聞いた。

「……やっぱり、事故物件だったんですね?」

「い、いえ! 前の住人の方には何の問題もなく退去していただいております!」

「誰か亡くなってる物件でも、その後に一人住人はさんじゃえば、法律的には事故物件じゃなくなりますよね?」

「……前の住人の方にはなんの問題もなく退去していただいておりますし、部屋のクリーニングや消臭は万全にしております!」

悪臭がする何かしらがあった、とも取れるわけか……。

俺は、この社員の人を問い詰めても仕方ないなと思って千歳に聞いた。

「千歳、その地縛霊の人って、どの辺にいるの?」

『台所にずっといるけど、今ビビってるぞ。張り倒さないでくれって』

「そりゃ大抵の人はそうだよ。なるべく説得して出てってもらいな」

千歳は首を傾げたが、すぐに何かに耳を澄ますような顔になって、しばらくして言った。

『死ぬ前に温泉とビールと海鮮が味わえなかったのが心残りすぎて嫌だって。新しく越してきた奴らに乗り移って動かして、ビール飲んだり刺し身食ったりしたけど満足できなかったって』

「とんだ心霊現象だな……」

乗り移られた住人に意識があったかわからないが、意識がないとしたら、気がついたらビールと刺し身を食い散らかした跡があったわけで、意識があったとしたら、体が意のままに動かない状態でビールと刺し身を食べさせられたわけで。

どっちにしろ、住人が逃げ出して当然だろう。

『酒と飯がたくさん食える奴に乗り移って、海鮮のうまい温泉宿に行けなきゃここを動かないって言ってる』

心残りが俗すぎる地縛霊だ。

「……とりあえず、金谷さんに相談しようか?」

『拝み屋でどうにかなるか? 結構しつこそうだぞ? 酒と飯たくさん食える奴探したほうが早くないか?』

不動産屋の社員は俺と千歳を交互に見ていたが、やがて、あきらめたような顔で言った。

「……その、お祓いがちゃんとできる方にお知り合いがいらっしゃるなら、お祓いをしていただいてからのご契約でも大丈夫です。ご契約していただけるのなら」

やっぱり、何かあったんだろうな。

俺は、「同居人に見えている地縛霊さえなんとかなればここを契約するつもりです」と不動産屋の社員に伝え、日を改めて拝み屋の人を連れて来るということで、その日の内覧はおしまいになった。

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