バズりは深いと知らせたい
千歳が星野さんと遊びに行っちゃっていないので、作り置きしてもらったお昼を1人で食べてる。
千歳と話しながら食べられないのが少し寂しいので、スマホを見ながら食べていた。行儀悪いけども。
そうだ、今のうちに子狐ちゃんたちがちゃんとSNS使えてるか見ておこう。旧TwitterとBlueskyに子狐ちゃんたちの共同アカウント作ったから、定期的にチェックしてるのだ。
どうかな。おっ、写真上がってる。自撮りだけどスタンプでちゃんと顔を隠してあるし、背景も多分特定できないし、まあ大丈夫……。
次の瞬間、俺はとんでもないことに気づいてひっくり返りそうになった。隠れてない、一番大事なところが隠れてない!
俺はあわてて子狐ちゃんたちの共有スマホにLINE通話した。薄荷ちゃんが出た。
「はい、もしもし」
「薄荷ちゃん、旧Twitter見たけどあの写真まずい!!」
「え、顔隠しましたけど」
「耳が出てる耳が!!」
「え?……あっ!!」
そう、顔は隠れてるけど、子狐ちゃん達の特徴、すなわち狐耳がスタンプからぴょこんと飛び出しているのだ。
「すみません! すぐ消して矢車ちゃんに言っときます!」
「あ、あれ矢車ちゃんだったのか」
「バズりたいらしくて……」
「バズりたいなら、それこそ個人情報の扱いは慎重にしなって言っといて」
帰ってきた千歳に顛末を話すと、爆笑されてしまった。
『耳か! そりゃあの子達は狐耳が普通になっちゃってるからな!』
「いやもう、気が気じゃなかったよ……」
『お前優しいなあ、すぐ教えてやったんだ』
「一応教えた人間として責任は感じていて……矢車ちゃんはどうにも危なかっかしいんだよな」
薄荷ちゃん程度の堅実な目的があると安心なのだが、あの子は漠然とただバズりたいだけだからな。
『個人情報出さないでバズりたいなら、それこそVTuberがいいんじゃないか?』
「うーん、あれは機材を揃えるのにお金かかるからねえ」
『へえ、VTuberって金持ちなんだ』
「そういうわけでもない、儲かるのは有名どころだけだよ。お金使わないでできなくもないんだけど……有名どころに比べたらどうしても質が下がるし」
最低でも、2Dモデル、配信ソフト、YouTube周辺の細かい仕様の勉強がいるし、結構気合い入れないとできるもんじゃない。
だが、千歳の次の言葉で、俺は気が変わった。
『でもさ、バズり続けるのって大変だし、バズで仕事してる人をやらせてみて苦労を味わわせるのは悪くないんじゃないか?』
「……なるほど」
そうか。VTuberなら、声はともかく顔出しはしなくてすむしな……。配信じゃなくて動画なら、編集でまずいところ切るのも可能だし……。
「じゃあ、矢車ちゃんにはVTuberとして動画を出してバズれるように勉強しなって言っとこう」
夜に矢車ちゃんに通話して提案したら「絵の用意無理です!」と言われてしまった。
「何言ってるの、自分でガワ用意してるVTuberのほうが少ないよ」
「簡単にバズりたいんです!!」
魂の叫びを聞かされてしまった。
「それは無理です、インフルエンサーの苦労を知りなさい」
「ええー……」
「割とバズにこだわるよね、どこから知識仕入れたの?」
今から思えば、矢車ちゃんは俺が教える前からインターネットに触れてるようだった。VTuberって言葉もすんなり理解しているしな、矢車ちゃん。
矢車ちゃんはしょぼくれながら言った。
「その、お買い物とかの融通効かせてくれてる神社の友達が、インターネットでいろいろ見せてくれて」
あー、半端に影響受けてるのか。
「そういう有名な人達は上澄み中の上澄みだね……よっぽどがんばらないと無理だよ」
「そんなあ……」
矢車ちゃんの声は意気消沈していた。俺は慰めるように言った。
「えっとね、地道にやるの大事だよ? バズってからも人気持続する人はさ、地道に面白いもの作り続けてたから、バズで注目されたあとに実績も見てもらえて、それでファンが増えるっていうのが多いし」
「うーん……」
「個人の依頼受け付けてるイラストレーターさんも、動かせるモデル作成依頼受け付けてる人もたくさんいるから、まずはそういう人を探してみな。どんなガワがいいかも考えておきなよ」
「ガワですか……」
「ちなみに、狐耳の巫女さんのガワは、偉大すぎる先人がいるからあんまりオススメしない」
VTuber界隈の先陣を切った偉大なる四天王、その一角が狐耳の巫女服なのである。
「そうなんですか?」
「偉大なる先人がものすごくいる分野だから、そういう人たちの実績をよく見て研究するのが先かもね」
「……研究してみます……」
「よしよし、がんばってね」
とりあえず、これで大丈夫かな。
通話を聞いていた千歳には苦笑された。
『お前も大変だな』
「俺、千歳がバズりたがりじゃなくて本当によかったと思ってるよ」
千歳は全くインターネットを知らなかったが、それで免疫がなくてインターネットに狂うような人じゃなくて、本当によかった。
千歳は『まあ、バズったらそれはそれでうれしいけどさ』と笑った。
『多少反応もらえるだけで嬉しいし、ワシはMisskeyとBlueskyで料理ほめてもらえればそれで十分だな』
「得難い資質だ……本当にありがとう」
『なんも礼言われることしてないだろ』
「でも、ありがとう」
千歳が危なっかしい人じゃなくてよかった。いっしょにいて安心できる。
俺のそばにいるのが千歳で、本当によかった。




