表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

65/849

初めて映画を楽しみたい

富貴さんからLINEで「久しぶり。この間はうちの子会社が世話になって、どうも」と連絡が入った。「大したことではないです」と返信したが、その後、執拗に飲みに誘われている。

「旧交を温めない? いいお酒と料理食べさせてあげる」

「ごめん、今の俺だとお酒あんまり飲めない」

「モクテルに力入れてるお店にしてあげる」

「今の俺だと、体調的にあんまり遠出できない」

「私からそっちに行ってあげてもいいのよ。どうしても遠い店しかなかったら迎えに行ってあげる」

「ていうか、今の時期コロナすごく増えてるし」

「今後もっと増えるだろうから、今のうちにって見方もあるでしょ?」

さらに追加で返信がきた。

「感染対策に加えて抗原検査もやってくれる店で、モクテルもいろいろ作ってくれるところ、そっちの市内に見つけたから。料理も評判いいところ。迎えに行ってあげてもいいけど? 自力で来る?」

店のサイトのアドレスまで送られてきた。距離的には遠いが、最寄りのバス停からバス一本乗れば行ける駅のすぐ近くだ。これはもう逃げられない。

怨霊(命名:千歳)に相談しようか迷ったが、千歳はノリノリで飲みを勧めてくるだろうし、困った。

当の千歳(黒い一反木綿のすがた)はタブレットをにらみながら悩んでいる。星野さんが旦那さんと見に行った映画がとても面白かったらしく、俺がその映画について「すごく評判いいよ、狭山さんも作家名義のTwitterでよかったってほめてた」と伝えたら、完全に見に行く気になったようだ。でも映画館のサイト(これも俺が教えた)で調べたら、人気映画すぎて、ちょうどいい時間に空きがないのだ。

「レイトショーか夕飯時しか空いてないな……飯だけ作って見に行くのはまあできるが……どうしようか……」

折よくというか折悪しくというか、映画館は、富貴さんに指定された店がある駅にある。

たまには千歳が夕飯作りを気にしない日があったっていい、と思う。あと、映画館があるのは千歳が行ったことのない駅なので、すごく見たい映画でも、初めてのところに一人で行くのが苦手な千歳は、単独で映画館に行くのは気がすすまないだろう。

俺は決めた。富貴さんからの嫌味は甘受して、千歳のためと思って行こう。

「千歳、俺、近々夕飯いらない日があるんで、その日に映画行く感じはどう? 映画館まで送るよ」

『え?』

「その映画館がある駅、俺、行く用事ができるから」

千歳はタブレットから顔を上げて、不思議そうな表情で俺を見た。

『どうしたんだ? 用ってなんだ?』

「その、富貴さんにめちゃくちゃ飲みに誘われてて。ちょうど映画館がある駅の店でさ」

千歳の顔が、ぱっと明るくなった。

『脈ありそうじゃないか! ちゃんと口説いてモノにしてこい!』

「絶対に嫌味言われたり怖いこと言われたりで終わりだよー、最大によくても、何か仕事頼まれるだけだと思う」

『仕事もぎ取った上で口説いてモノにしてこい!』

「そんな無茶な……」

富貴さんの件から、なんとか千歳の気をそらしたい。俺は、千歳の好みそうな話題を考えて言った。

「まあ、千歳は映画とポップコーン楽しんできな。キャラメルポップコーンとか、千歳は好きになると思うよ」

『キャラメルポップコーン?』

やっぱり千歳はキャラメルポップコーンを知らなかったらしい。初めて聞いた言葉だと言うように首を傾げた。まあ、多分平成に入ってから広まってるよな。

俺は答えた。

「ポップコーンにキャラメルソースまぶしたやつ。ちょっとベタベタするけど甘くて人気」

『食べる!』

「ナゲットとかホットドッグとか、フライドポテトとか、ジャンクフードだけど食べ物いろいろ売ってる映画館だし、いろいろ食べてきなよ。あと、カルディって言って、いろんな国の食べ物がある面白い店が近くにあるから、そこも教えとくね」

『変わったお菓子売ってる店か?』

「他であんまり売ってないお菓子がたくさんあって、しかもおいしいって評判」

『行く!』

そういうわけで、週末の夜に二人で映画館のある駅まで行くことになった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ