お前と梅を試したい
『もう飲めるかなあ、氷砂糖まだ溶け切ってないけど』
怨霊(黒い一反木綿のすがた)(命名:千歳)が梅シロップを仕込んだ大きな瓶をぐるぐる振っている。一日一回は振って梅に砂糖を行き渡らせないといけないらしいが、もう十分液体が滲み出て、梅の実が浮いている状態だ。
俺は作業の手を止めて、千歳に話しかけた。
「味見くらいしてもいいんじゃない?」
『うーん、そうか、一口くらいいいかもな……』
俺は、ふと気がついてスマホを見た。そういえば、届く予定は今日だ。時間からして、もう届いていてもおかしくない。スマホの通知は、置き配が完了したことを示していた。
「あ、よかった、ちょうど届いてるよ。製氷機の氷も使えるやつだし、作って試したら?」
千歳は不思議そうな顔をした。
『何か頼んだのか?』
「うん、シーズンに入って安かったから」
玄関を開けて、置いてあった段ボール箱を持ち上げ、家に入れる。開けて千歳に中身を見せた。
「ほら、かき氷機。暑くなったし、作って食べてもいいんじゃない?」
千年は目をまん丸くした。
『え、わざわざ買ったのか!?』
「うん、流石にかき氷作るためだけのは家にないから」
『で、でも、自分でそんなに食うわけでもないだろ!?』
「でも、千歳に梅シロップかき氷おいしいって勧めたの俺だし。大丈夫、値引きのやつに溜まってたポイント足して買ったから、かなり安い」
そう言って千歳にかき氷機を渡すと、千歳は目をまん丸くしたままかき氷機を見て、その次に俺をまじまじと見た。
『お前……』
千歳はかなり驚いているようだが、悪い気はしていない感じの反応だと思う。千歳的には俺は祟る対象なので、お礼などを言う筋合いはないみたいだが、ひょっとしたらこれはお礼を言われるやつかもしれない。
千歳はキラキラした目で俺とかき氷機を見比べつつ、しみじみと言った。
『お前、実は結構いいやつなのか……?』
……お礼とは違ったけど、まあいいか。喜んでいるのはよくわかる。
千歳とは話が通じるから割とうまくやれてると思ってるけど、千歳の感情表現が割とはっきりしててわかりやすいのも、結構ありがたいことかもしれないと思った。




