隣に座ってやる気出したい
千歳に、峰家から正式に仕事が来た。契約書は金谷さんと一緒に書いてきたとのことで、やる仕事ももうもらってきたそうだ。
『結構たくさんあるなあ、まあ時間は余裕持たせてもらってるけど』
封筒からガサガサ和紙を出す千歳。和紙にはすでに筆でびっしり文字が書いてある。くずし字ではないんだけど、読んでも、神社で唱えるような文言ってことしかわかんないな……。
「それお手本に書くの?」
『いや、何もつけてない筆でこの文章なぞって、念を込めるだけだ』
千歳は和紙をテーブルに広げ、封筒に入った筆も取り出した。
『峰家って術式一本で食ってるところだから、そんなところが作ってるのなんていじったら、それだけで台無しになる』
「術式っていうのがよくわかんないんだよな、どういうものなの?」
千歳を呪ったのしかよく知らないんだけど、なんか、千歳の守り刀にも峰家は細工してるから、いい方にも悪い方にも使えるものなのかな?
『まあ、祝詞にもなるし、呪いにもなるし、みたいなもんで、言葉をしっかり正確に使わないと作れない。いろんなルールがある。でも、書いた術式を作動させるには、文字に強い念を込めなきゃダメ、みたいな感じだ』
ふーん、プログラミングとか回路みたいな感じなのかな。で、プログラミングや回路を動かすには電気がないといけないわけで、千歳の念とやらは電気?
「文字はもう書いてあるから、念を込めるのは千歳って感じ?」
『そう。本当は術者がこめるんだけど、術式書く才能と念込める才能って別物だから、分業もある感じだ。でも念を込めるのは文字に対してだから、ワシは文字をなぞらなきゃいけない』
「へえー」
何もつけてない筆で文字をなぞりだした千歳を見て、俺は思った。こういう作業をよくするなら、千歳にだって作業机がいるのでは? 食卓に使うテーブルでやるのは、食事のたびにいちいち片付けなきゃいけなくて、大変では?
「千歳、そういうのやるなら、自分の机欲しくない? 食卓でやるといちいち片付けなきゃだから、大変じゃない?」
『え、でも置くスペースあるか?』
千歳は首を傾げた。
「千歳の物入れ棚を俺の方に寄せれば、小さめの机くらい置けない?」
俺の机から少し離れた所に、前に買った千歳の鍵付き物入れがある。俺の机と物入れをくっつければ、部屋の隅にもう一つ机くらい置けそうな気がする。
『あー、まあ……置けるか……』
千歳は頷いた。
『この仕事、定期的にやってくれって言われたしな……まあ、机あったら置いとけるな……』
「峰家に必要経費ですって言ったら、机と椅子代くらい出してくれるかもしれないよ」
俺はフリーランスとしての着眼点を口に出した。
『聞いてみる、でも今はちょっと作業進める』
「あ、邪魔してごめんね」
その時はそれで終わったのだが、あとで千歳は部屋のスペースを測り、Amazonか何かで机を注文したようだ。2日後には組み立て式の机が届いた。
で、千歳はなぜか、物入れを部屋の隅まで持っていった。
『お前の机の隣に机置く』
「え、そうすんの?」
物入れを動かす距離的に、俺の机に物入れを寄せてスペース作ったほうがいいかなと思ったんだけど。いや、でも、千歳は力持ちだから、多少の距離の違いはなんでもないのか。
『お前の隣に机置くの嫌か? 集中できないか?』
千歳は心配そうに聞いてきた。
「いや、そんなことないよ、どうぞどうぞ」
そう言うと、千歳は俺の机にぴったり新しい机をつけて置いた。
『よし、これでお前が集中してる時ワシも集中しようって気分になる』
千歳は満足気に頷いた。
「あ、それで隣に置きたかったの?」
『うん』
そういう訳で、俺と千歳は並んで座って作業するようになったのだった。うーん、別にサボる気なんてなかったけど、千歳が頑張ってる時は、確かに気を抜くのが憚られるな。俺的にも、よかったかもしれない。




