全部やったし旅立ちたい
博物館上階のレストランは、ずいぶん広くて明るかった。昼時でそこそこ人がいたが、俺達は運よく席を見つけられた。
『いい感じのとこだな』
「「「えびふらい! おこしゃまランチ!」」」
「うんうん、すぐ頼むからね」
俺は千歳にメニューを渡し、千歳は幼児の霊に『ほら、お子様ランチあるからな、これ頼もうな』とメニューを見せていた。店員さんを呼び、おのおの注文する。
「「「おこしゃまランチ!」」」
「おろしそばください」
『エビフライ定食とチキンカツカレーください!』
あれ、千歳アジフライ定食頼むって言ってなかったっけ?
「アジフライ定食じゃなくていいの?」
『うん、まあ、ちょっとな』
幼児の霊用にオレンジジュースも頼み、しばらくして頼んだメニューがやってきた。お子様ランチには小さいエビフライとミニハンバーグとフライドポテト、最後に旗付きチキンライスが並んでいて、いかにも小さい子が好きそうなラインナップだ。
『ほれ、でっかいエビフライ、おまけだ』
千歳が自分のエビフライ定食から、大きいエビフライを1本お子様ランチに乗せた。幼児の霊は目を輝かせた。
「「「きゃー!!」」」
「あ、千歳このためにエビフライ定食頼んだの!?」
うわー、気が利かなかったな、俺!
『まあ、子供用のって小さいからな、1本くらい景気よくてもいいだろ』
千歳は、なんでもないように言った。
「なんかごめん、全然気づかなくて」
『別に気にすんな、食べよう、いただきます』
「「「いただきまちゅ!」」」
幼児の霊がちゃんと食事を食べられるか心配だったが、多少食べこぼしつつも、スプーンとフォークでよく食べていた。千歳より俺のほうが早く食べ終わったので、俺は食事で汚れた幼児の霊の口と胸元を、紙ナプキンで拭いてあげた。わー、手もドロドロだな。
「「「おいちかった!」」」
「よかったねえ」
千歳が食事の手を休めて、幼児の霊の手の方を拭いてくれた。
『えらいぞ、好き嫌いしなかったな』
「「「うん!」」」
千歳が食べ終わるのを待って、会計を済ませ、レストランの外へ出た。
『午後、めぼしいのあるか?』
「ジャンボブックの展示とか、よさそうなんだけど……」
すると、幼児の霊が俺と千歳の手を掴んだ。
「「「ねえ、とってもたのちかった!」」」
「あ、そうか、よかったね」
「「「きょーりゅーみれて、他にもいっぱい見られて、おいしいのたべれた!」」」
『…………』
千歳が険しい顔になって、幼児の霊を抱き上げた。
『ちょっと、人気が無いところ行ったほうがいい』
「え、なんで?」
『この子、心残りなくなったから、もう分解するぞ』
「え!?」
と言われても、人気のないところなんてすぐ見つからない。とりあえず、近くの階段の踊り場を目指して駆け下りた。
踊り場で立ち止まると、後ろから金谷さんと、もう一人女性が付いてきていた。確か村上さんと言って、千歳がバラバラになった時、駆けずり回ってくれた人たちの一人だ。
千歳に抱き上げられた幼児の霊は、千歳に「「「だいちゅき!」」」と抱きついた。
「「「そっちのおじちゃんにもすゆ」」」
「俺!?」
『ほれ、やったれ』
千歳から幼児の霊を差し出され、俺は慣れない手つきで、なんとか幼児の霊を抱っこした。幼児の霊は、俺にもぎゅっと抱きついた。
「「「おじちゃんも、だいちゅき。たのちかった!」」」
俺の腕から、幼児の重さがふっと消えた。幼児の霊の姿はあっという間に透明になって、蛍火のような光がいくつか残り、その蛍火もあっという間にあちこちに拡散してしまった。え、これ、成仏したってこと……?
金谷さんが残念そうに「あー、飛び散っちゃいましたか」と言った。
「だいたいご両親のところに寄ると思いますけど……追跡が大変ですねえ……」
『でも親の所行ったら、もうあの世行くだろ』
「それはそうなんですけどね」
金谷さんといっしょに来た女性も、「あの霊たちの親は、ほぼ連絡先確認できてますから」と金谷さんを慰めるように言った。俺はまだよくわかってなくて、金谷さんに聞いた。
「えっと、これは、あの子、心残りなくなって成仏したってことですか?」
「えーと、心残りなくなって、個々の霊に分離しました。個々の霊は多分親御さんのところに行って、それからあの世に行くと思います」
あ、そうか、あの子、病院で亡くなった子供の霊の複合体だったもんな。そっか、心残りなくなったならいいんだけど、午後もいろいろ見せてあげられると思ってたんだけどな……。
よかったと思いつつ、なんとなく寂しい気持ちになっていると、千歳に声をかけられた。
『お前もお疲れ。いろいろやってくれてありがとう』
「ああ、いや、なんてことないよ」
俺は頭をかいた。金谷さんが言った。
「本日は、お二人ともありがとうございました。肝心な部分は終わりましたので、このままお帰りいただいても大丈夫です」
『まっすぐ帰るのもアレだな。小田原駅になんかお土産あるかな?』
千歳が俺に聞く。切り替え早いなあ、感傷に浸ってるの俺だけなのかな?
「まあ……焼きかまぼことか有名だって聞くけど……」
『じゃあそれ買おう。じゃ、あかりさん、村上さん、お疲れさま!』
そんなこんなで、俺たちは博物館をあとにした。
駅までのバスを待ちつつ、俺は千歳に聞いた。
「こんなんでよかったのかなあ、もっといろいろ見せてあげられたんだけど」
『よくなかったら分解してないぞ。お前、ずっとあの子に優しかったな』
「そうかな?」
なるべく、大人としてやるべきことはしよう、と思ってたけどさ。
考えていると、千歳はふっと優しく笑った。
『お前、いい父ちゃんになれるぞ』
「え!?」
『だからさあ、咲さんでダメだったのにめげないで、早いとこ結婚して子供作れよ』
「ええー、結局それかあ……」
……俺は、千歳とあの子と、家族みたいに歩く方が楽しかったよ。まあ、千歳には言えないけどね。




