一肌脱いで解決したい
狭山さんからLINEが来た。
「和泉さんと千歳さんのお二人に、折り行ってご相談があるんですけど、どこかで一度お会いできませんか? あかりさんも同席なんですけど」
んん? 狭山さんと金谷さんの二人が俺と千歳に相談あるってこと? 何の話だ?
千歳に聞いたら、千歳にも同じ内容の話が狭山さんから来ているとのことだ。どういうこと?
『お前、どの時間が空いてる?』
「明後日の午後なら空けられるかな」
『じゃあ、ワシもそれに合わせる』
「そんじゃ、明後日の午後とりあえず空いてますよって返事するか」
狭山さんにそう返事したところ、明後日の午後に、いつも使う個室のある喫茶店で狭山さん夫婦と会うことになった。
そして当日。喫茶店に行ったら、狭山さんも金谷さんももう来ていて、俺たちに頭を下げた。
「今日はすみません、微妙な話題なので、お会いして相談したくて」
「大丈夫ですよ、私と千歳が必要な話なんですよね、どういったお話ですか?」
店員さんに適当にアイスティーを注文し、俺は話を聞く体勢に入った。
「お願いしたいのはですね、また和泉さんと千歳さんに僕たちの味方になってほしいって話なんですけど」
「味方?」
『味方?』
俺と千歳で声がハモってしまった。また何か、狭山さん夫婦にトラブルなのかな?
「できることなら、何でもしますよ」
『ワシもがんばる! 狭山先生と、あと一応妹のためだもん!』
二人でそう言うと、狭山さん夫婦は少し安心した顔をした。
金谷さんが口を開いた。
「あの、私の祖父の安吉がですね」
あの面食いのおじいさん?また何かあったの?
「私達に、頭金を出すから千歳さんの家の近くに家を買えって言ってきててですね……」
『ワシんちの近く!?』
千歳はびっくりしたし、俺も驚いた。いやでも、狭山さん夫婦にもっと深く千歳に関われって話なのかな?
そんなに予想は外してなかったらしく、狭山さんと金谷さんの説明は次のようなものだった。
千歳に関わることが多い狭山さんと金谷さんだから、千歳の近くに住んでは?という話が金谷家周辺で出ているそうだ。で、安吉さんは、金谷さんが行方不明になってまで狭山さんと籍入れるのを強行するくらいだったので、それを邪魔したことに負い目があるらしい。
で、千歳の近くに家を建てるなら頭金を自分が出す、と言ってきているそうだ。
金谷さんが困ったように言った。
「でも、頭金出してもらうとなると、家について祖父にいろいろ口出されそうで……私達はマンションが管理楽だし警備もしっかりしてるしでいいんですけど、すでに祖父は一戸建てしか考えてないんですよね……」
狭山さんもため息を付いた。
「安吉さんには僕も複雑な思いがありまして、あんまり借り作りたくなくて……」
そりゃ、狭山さんは安吉さんに複雑な思いだろうなー! 面と向かって、お前と孫娘は結婚させない、みたいなことされたんだしなー!
俺は狭山さん夫婦に聞いた。
「話をまとめると、お二人は私と千歳に、お二人に近くに住んでほしくないと主張してほしいってことでしょうか?」
俺たちに味方になって欲しい、ということは、たぶん安吉さんに対抗して欲しい、ってことだろうし。
『そっかあ、近くに住んでくれたら楽しいって思ったけど、まあ仕方ないな』
千歳は、少しがっかりしつつも納得してる口調だった。まあ、推しの作家が近くに住んでくれたら千歳としては嬉しいだろうけど、安吉さん周りの事情もわかるもんな。
しかし、狭山さんは首を振った。
「あ、いや、千歳さんの近く自体には住んでもいいかなと思ってるんです……住みやすそうな町なので」
『え、そうなのか?』
「駅へのアクセス悪くないですし、安いスーパーもドラッグストアもあるし。将来のこと考えても、保育園も小中学校も近いし」
『あー、確かにまあ、買い物はしやすいけど……』
俺は頷いた。
「確かに、暮らしやすい場所ではありますね」
就職の際に移り住んだこの町だが、スーパーとドラッグストアが近いからこの町にアパートを選んだ事を思い出す。駅も、ものすごく近いというわけではないものの、一度電車乗れば都心まで一本だし。保育園や学校までは考えなかったけど、保育士さんに連れられて散歩してる小さい子や小中学生はよく見る。
金谷さんが口を開いた。
「私達もまだ決めかねてるんですけど、どういうふうに決めても、千歳さんと和泉さんに味方していただけないかと思って……」
あー、まあ、すぐ決められることじゃないしな。よく考えたほうがいい。
「えーと、じゃあ、うちの近くに住んでも全然いいけど、どういう家かは狭山さんたちにお任せしたい、という態度を表明すればいいんでしょうか、私達は?」
俺がそう聞くと、二人とも頷いた。
「それがすごくありがたいですね」
狭山さんは嬉しそうに言った。
『それならワシ、簡単にできるぞ。どこにそう言えばいい?』
「そのうち、祖父から連絡あると思うので、そう言っていただけませんか?」
『わかった!』
千歳は快諾し、帰ったら早速、千歳に安吉さんから連絡が来たようだ。
『わー、LINEで来た。あの人使いこなせるんだなあ』
「すごいね、あの年で使えるんだ」
千歳は少し考え、俺に聞いた。
『あのさあ、ワシの今の姿、割と見てくれがいいんだよな?』
「ものすごくいいよ」
『じゃ、ビデオ通話出来ないかって返事しよっと』
あ、なるほど、安吉さんは面食いだからな……。
無事にビデオ通話が始まったらしく、千歳は『ワシはさあ、狭山先生たちに近くに住んでもらうのは全然いいけど、狭山先生たちの好きな家に暮らしてほしい!』とデカめの声で宣言した。おお、いいぞ、問題点をよくわかってる!
安吉さんらしい声がした。
「いやあ、それははい、そうですね」
『だから、狭山先生たちが暮らしたい家じゃないと嫌だ。和泉もそう言ってる』
「はい、そうします、ありがとうございます!」
割とすぐにビデオ通話は終わり、千歳は『ワシ、まあまあよくやっただろ』とドヤ顔をした。
「えらかったよ、狭山さんたちの住みたい家を強調したのがよかった」
『これで大丈夫かな?』
「まあ、できるだけのことはやったね」
後日、狭山さんから連絡が入り、狭山さん夫婦は安吉さんから頭金を借りて、俺達の家の近くにマンションを買うことになったそうだ。頭金を出してもらうのではなく借りるのは、なるべく借りを減らしたいということだろう。一件落着して、よかった。




