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雨でも一緒に歩きたい

 筋肉痛で寝込んでいる。雨で低気圧だから、もともとダメという可能性も否定できないが、起きた状態を維持できない。なんとか朝食は食べたが、体中痛くて食器洗うのは無理だった。ちょっと走っただけでこれは情けなさすぎるが、この自立神経がイカれた運動不足の体は、いかんともしがたい。

 食器を洗い終わった怨霊(女子中学生の姿)が布団までやってきた。


『筋肉痛痛いか? 足痛いのか?』

「……なんかもう全身がダメ……」


 走るのって全身運動なんだな、こんな形で理解したくなかったけど。


『……うつ伏せになれ、揉んでやる』


 みしみしいう体を転がしてうつ伏せになると、千歳はボンと音を立ててヤーさんの格好になり、たまに風呂上がりにやってくれるように俺の体を揉みだした。……いや、いつもより丁寧にもんでる気がする。


「……なんかいつもより念入りだね……俺そんなにダメな感じ?」

『いや、その……ダメはダメなんだが』


 上から微妙に困った気配がした。どうした?


『……ワシが昨日、変なこと考えないですぐ帰ってれば、別にお前筋肉痛にならなかったしな……』


 ……千歳的には、昨日の件は悪かったと思っているらしい。


「……まあ、あの朝霧トップとかいう人が千歳に変なちょっかいかけなきゃってのもあるし、千歳が気持ちに整理ついたなら、俺は別に」

『…………そうか』


 俺が、気にしていないと伝えたくてそう言うと、そのまま千歳はだまり、俺の体をもみ続けた。肩や背中、腰もいつもより念入りに揉まれたのだが、その時俺は気づいた。


「あれ……筋肉痛はあるけど、なんか、肩とか背中とか、いつもほどコリ感がなくない?」

『あ、そうだな、意外と固くないぞこの辺』

「えー、なんでだ? ……え、もしかして運動で血行良くなった?」


 いろいろ原因を考えるが、どうもそれくらいしか思い浮かばない。


「うわー、こんなことになるとは……運動しすぎはアレだけど、やっぱり動いたほうが体にはいいんだなあ……」

『ラジオ体操だけじゃダメなのか?』

「うーん、やらないよりは全然いいと思うけど、もうちょっと運動すべきなんだろうな、これは」


 そもそもこの筋肉痛は運動不足じゃなきゃならかったわけだし、萌木さんも運動推しだし、もう少し体動かしてもいいのかもしれない。


『散歩とかするか? 前も言ったが』

「そろそろそうしてもいいかも、でも雨多いんだよなあ、梅雨明けたら暑くてもっと歩きにくくなるし……いや、朝早くならそこまで暑くないか……?」


 とりあえず、次の朝から少し早く起きて、雨が降ってなければ、ラジオ体操第一をした後に外を少し歩くことになった。

 翌日、雨が上がっていたので、とりあえずアパートの周りを歩いた。千歳(女子大生のすがた)にも一応ついてきてもらった。雨上がりだけあって、植木の緑は濡れ、並ぶ家の塀にはカタツムリがたくさんいた。


『雨上がり、なんでカタツムリいつもコンクリにいるんだろうな、エサもないのに』

「カタツムリはコンクリからカルシウム取れるんだってよ、たぶん殻の材料にしてるんじゃないかな」

『へー! そんなことするのか! じゃあ今コンクリ食べてるのか?』

「そうかもしれないな」


 紫陽花もやたら咲いている。梅雨のテンプレートみたいな風景だ。俺はふと、紫陽花の名所を思い出して言った。


「鎌倉に、紫陽花の金平糖があるんだけどさ」

『紫陽花の金平糖?』

「紫とか水色の金平糖を透明のビニールに小さくまとめて、紫陽花みたいに包装してあるんだ。結構きれいで、ラムネの香りとかもする金平糖なんだよ」

『おおー……』


 千歳は目をキラキラさせた。


『食べてみたい!』

「たぶん取り寄せられるよ、送料かかるけど。帰ったら調べようか」

『見つけたら注文してくれ、後でワシ金払うから』

「うん」


 大した話でもないけど、大した話もせずに誰かと一緒にダラダラ歩くのも悪くないなと思った。千歳となら、それこそ鎌倉で紫陽花を探して歩いたり、食べ歩きをしたりしても楽しいのかもしれない、と思った。

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