好きな料理は絞れない
千歳に、咲さんをデートに誘えと言われて一日。夕飯の席で、千歳に聞かれた。
『それで、デートの予定の首尾はどうだ?』
「えーと、咲さんからLINE来て、来週のどっかで、一緒にご飯食べに行きませんかって誘われた。俺の好きなところ探しますよだって」
『お前がリードされてどうする』
「はい……」
別に、男女関係なくリードがうまいほうがやればいいと思う。でも、咲さんにばかりリードの負担かけるのもよくないよな。ぼちぼち埋め合わせさせてもらおう。
『まあ、でも、咲さんの方から誘ってくれたってことは、咲さんお前とすごくデートしたいってことだもんな。頑張ってこい』
「う、うん」
俺はうなずいた。
俺の好きな料理を咲さんに返事しないといけないんだよなあ。俺の好きな料理……。
……俺の好きな料理、千歳の作ってくれた料理なんだよなあ。
今日の献立は、豚の生姜焼き、水菜とトマトのサラダ、ナスの煮浸し。水菜をよく知らなかった千歳だったが、俺がどんな野菜か教えてからちょくちょく食卓にのぼる。ナスの煮浸しも、ナスがよく出汁を吸っていておいしい。豚の生姜焼きは、甘辛く、豚の旨味と生姜が効いて、ご飯にとても合う。
「……俺の好きな料理、千歳の作ってくれたのなんだけど、咲さんにうちに来てもらったりするのダメかな……?」
『え』
千歳は目を瞬いた。
「あ、いや、ごめん、作るの大変だよね、どっか店探すよ」
千歳のご飯が好きすぎてポロッと本音が出てしまったが、作るのは千歳である。千歳にいきなりいつもより多くご飯作れというのは、千歳に悪い。
だが、千歳は『いや、咲さんがいいなら作るけど』と言ってくれた。
「え、いいの?」
『咲さんがいいならだぞ』
「じゃ、じゃあ聞いてみる」
咲さんに、「千歳ともまた顔合わせてほしいんで、よかったらうちにご飯食べに来ませんか」と聞いたら快諾してくれた。千歳にそれを伝えたら『じゃ、腕によりをかけるか!』と張り切ってくれた。